【椿の名所】大樹寺の有楽椿

【椿の名所】大樹寺の有楽椿

坂を登る車が大樹寺に近づくとその椿の古木が視界に入ってきました。予想以上の大きさと存在感。花盛りを迎えて桃色の花を纏った有楽椿は前日の雨の気配を残す曇り空を吹き飛ばすように明るく輝いていました。

大樹寺の有楽椿

寺の入り口となる石段に接して有楽椿の古木は立っていました。花盛りを迎えて桃色の花をたくさん咲かせた枝を四方八方に広げ、石段や付近の地面を落ちた花が彩っています。

境内に入ろうと石段を登るとそのまま傘状に広がった木の下に入ることになます。見上げると無数にのびた枝葉が頭上覆っており、まるで木に抱かれているように気分になりました。

地上数十センチ付近から3本に分かれているのは、あるいは複数本が合着したのかもしれません。幹はやや石段側に傾倒していて、その反対の西側には古い切り株が見られます。その付近の椿の枝の広がりが少ないところを見ると長らく近接して育った木が有楽椿を生かすために切り倒されたのでしょう。

花ははっきりとした桃色でやや紫を帯びています。花付きはよく花盛りを迎えてなお蕾が多数残っており、今後2〜3週間は咲き続けるのではないでしょうか。幹は満遍なく苔に覆われていかにも古木然とした風です。しかしながら枝葉がよく繁り花付きもよく樹勢は盛んのようです。

傍に設置された案内板によると、樹高:8.7m、幹周り:1.85m枝張り:10.5m、推定樹齢400年。八頭町指定文化財(昭和54年12月13日指定)の名木です。案内板の記載内容が指定当時1979年(昭和54年)のものとすると45年経った現在は変化していると思われます。

指定年から見て八頭町に合併(2008年)前の郡家町(こおげちょう)時代に指定を受けて引き継がれているのでしょう。八頭町の公式サイトのトップページは花を咲かせた有楽椿の雪持ち姿の絵が飾っていました(2024/3/13現在)。八頭町にとってこの木はシンボル的であり大切な木なのだと感じました。

園芸品種としても古い部類と思われる有楽椿(太郎冠者)ですが、その古木は地方でも時折見受けられます。いつ、どうやって、誰がこの木をもたらしたのか、その木がここにある不思議に好奇心を掻き立てられます。この大樹寺の有楽椿は土地の歴史を何も知らないので特に不思議に感じました。

大樹寺について

公式サイトによると、大樹寺は古い記録を焼失して創建年代は不詳。往時は隣村、市場集落の山上にあって、家老安藤義光の菩提所であった。天正年間(1573~92)兵火にかかり、明暦年中(1655~58)現在地に再興。曹洞宗に改めて鹿野町の譲傳寺末となる。宝暦年中(1751~64)またも火災に遭うが、八世真龍が復興して今日に至る、とあります。

安藤義光(あんどうよしみつ)は毛利氏の家臣で八頭郡津黒城主でした。「天正年間(1573~92)兵火にかかり」とは豊臣秀吉の中国攻めのことで、毛利方の鳥取城を攻略するために若桜城(大樹寺から20Kmほど離れている)を陥したことから大樹寺の焼失はこの時期であろう、と書かれています。

推定樹齢400年とは、秀吉の鳥取城攻め(1581年)の頃に植栽され、その後の火災を免れたという推測によるのかもしれません。

八頭町・旧郡家町

大樹寺は立派な古刹でした。鳥取駅からのタクシーの道沿いに立派な旧家が並んでいるのを同乗者が指摘すると、運転手はここが古い道だと教えてくれました。

八頭町には鳥取城から若桜町(わかさちょう)へ至る若桜街道(わかさかいどう)が通ります。この若桜街道は藩政期からの街道で、鳥取城から若桜を経て戸倉峠を越え、姫路に至る街道で、伊勢神宮を参詣する人々も多く通ったと考えられています。

また八頭町はJR因美線(鳥取駅〜東津山駅/岡山県津山市)と若桜線(鳥取駅〜若桜/わかさ)が交差する場所でもあります。

日本海側と瀬戸内を結ぶ街道と鉄道が交差する八頭町は、かつては今よりも往来が多く産業も盛んな八頭の中心地でした。その人流物流に乗っていつの時代か有楽椿は運ばれ、この地に根づき大切にされてきたのでしょう。

<訪問日:2024年3月13日 曇り時々晴れ>

データベース

【名称】大樹寺(だいじゅじ)の有楽椿(うらくつばき)

【品種】太郎冠者(有楽椿)

【大きさ・形状】樹高:8.7m、幹周り:1.85m枝張り:10.5m

【樹齢】推定樹齢400年

【花、葉】花形:ラッパ咲き、中輪、花色:やや紫おおびた桃色

【花期】11月末~4月上旬

※樹木データは1994年(平成6年)12月八頭町教育委員会の案内板による

【所在】〒680-0307鳥取県八頭郡八頭町福地408

【備考】八頭町指定文化財(昭和54年12月13日指定)

・問合せ:0858-74-0854

【公式サイト】曹洞宗大樹寺:http://www.infosakyu.ne.jp/~kama/daijuji/

アクセス

・JR鳥取駅からタクシーで25分。

参考文献

 

 

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