鳥取県内の椿処を探していると200品種もの椿の一覧画像をアップしているサイトを見つけました。品種名を50音で整理し、読み仮名、画像、花期まで記載されています。鳥取県公式サイトの林業試験場による情報でした。充実した情報掲載とコレクションの多さに俄然興味が湧いて訪問してみる事にしました。
鳥取県林業試験場について
そもそも林業試験場とは林業の研究を行う場所だと思っていたので、そこに園芸品種を集めた椿園があることが不思議でした。調べてみると椿園のある「とっとり二十一世紀の森」は林業試験場に併設された森林公園で、森林・林業を学習・体験できる場所として一般に解放された施設でした。担当者の方は私の問い合わせに対して丁寧にメールの返信をくださったり、訪問時にはツバキ展示林の場所まで案内してくださいました。
ツバキ展示林の様子
ツバキ展示林は試験場本部棟の横から階段を登った先の傾斜地に広がっていました。施設自体が「霊石山(標高334m)の一部を利用して設けられた」とありましたが、椿が植えられていたのはまさにその斜面です。階段と坂を登って園内道路に至までの斜面の左手が椿の場所でした。斜面はそそり立つ法面をコンクリートで固めた壁を境に2段に分かれていて、コンクリート壁の間際は平らにならされた通路になっています。椿を見るためにはこの通路から椿林を見下ろすか、園内道路から見下ろすか、もしくは斜面に生えた木々の間を歩く事になります。斜面は水捌けが良いのでツバキには良い条件でしょうが、そこを歩いたり、手入れをする人間にとっては楽とは言えません。
歩けそうな斜面を辿って椿の木々の間を歩いてみました。下草が刈られているので足を取られることはありませんでした。
椿の木々の間は2〜3mくらい、それぞれの木に白い角材の立派な名札が立てられて品種名がわかる様になっています。樹高は3〜5mくらいまで成長していて、枝葉を茂らせ全体に鬱蒼としていますが、傾斜も手伝って案外に花は見やすかったです。植栽された品種は昭和の時代の椿の名花コレクション、といった感じです。ここをよく知る椿友のYさんは、名前に間違いがなくほぼ目線で花が見られるように管理されている良い椿園だと褒めていました。
訪問した3月半ばは当地の椿最盛期より前でしたが、ぽつりぽつりと咲く花を20種類くらい見ることができました。
椿林を見下ろす道路側には2月ごろからよく咲く「太郎冠者」が立っていて、四方八方にゆったり枝を広げてピンク色の花をたくさん付けていました。「大山姫」という品種や「通い鳥」も盛りを迎えつつあり多くの花を咲かせていました。
地図を見ると北向きで日照はさほど良くないかもしれませんが、椿たちは斜面に根を張り、長い年月をかけてゆっくり成長しました。中には失われた木もありましたが、それでも40年以上の間、これだけのツバキ林が維持されてきたのは、手入れが行われてきた証だと感じました。そして斜面であったことも大きい様に思います。椿にとって水捌けの良いことが重要なのだと改めて感じました。
見ることのできたツバキ
<2024/3/13>
ツバキ展示林の植栽図
パンフレットはないでしょうかという問いかけに、担当者の方がパンフレットはないが代わりにとくださったのが植栽図でした。位置と品種がきちんと記載された立派な資料でした。
名花がずらりと並んでいます。
(制作年月日は不明、喪失した品種名も含む)
ツバキ展示林ができた経緯と現状
ここに椿林ができた経緯を施設の担当者の方から教えていただきました。
約45年前の1980年(昭和55年)に林業試験場が現在地に移転した際、法面緑化の目的でツバキ、ツツジ、サツキをそれぞれ200品種ほど植栽したそうです。ツバキを導入した理由ははっきりしませんが当時研究員の中に鳥取の椿の会の会長がいらしたとのことです。
造成地の法面は土壌が悪く、ツバキの成長には長い時間がかかったそうです。その上、ネズミに根を噛まれたり雪害にあったり、土壌に不適合で成長不良で枯れる木もあったため、現在は導入時の200品種を下回るとのことでした。
こうして枯死したツバキを伐採し、成長して混み合ったために枯れた枝や雪折れした枝を除去したり、年に2〜3度は下草刈りをするなどの管理を継続されているとのこと。歩くだけでも大変な斜面でこうした作業をするのは大変なご苦労だと思います。ツバキたちも環境に耐えて数十年もの間よくぞ生き延びたものです。
帰り際に地元の鳥取椿の会が主催する「第70回つばき展」があることを教えていただきました。手書きで(最終回)と書かれていました。会の方々はこのツバキ林の見学にもいらっしゃるそうです。
鳥取県内でこれだけまとまった椿のコレクションがあるのは、この林業試験場と赤崎の椿の森(私有地)くらいではないかと思います。貴重な県内の椿の名所としてこれからも大切に守り育てていただきたいと思いました。また付近の八頭町の大樹寺には推定樹齢400年の有楽椿の古木があります。共に地域の椿の名所として多くの方に訪れていただきたいものです。
おまけ:竹を利用した法面の草抑え
椿とは関係ありませんが鳥取県林業試験場のパネルで竹を利用した法面の草抑えが紹介してあり面白かったので紹介します。
<訪問日:2024年3月13日 晴れ>
データベース
【名称】鳥取県林業試験場のツバキ展示林
【コレクション】約200種
【花期】早咲きは10月中旬、2月中旬から4月下旬にかけて開花
【所在】〒680-1203 鳥取県鳥取市河原町稲常113番地
【備考】
・営業時間:9:00~16:40、入園料無料
・定休日:毎週火曜日、年末年始
・問合せ:電話 0858-85-6221
【公式サイト】
・鳥取県林業試験場21世紀の森椿園:https://www.pref.tottori.lg.jp/170827.htm
アクセス
・JR鳥取駅からバスで20分「稲常」下車、徒歩15分
・JR鳥取駅からタクシーで20分
参考文献
・鳥取県林業試験場21世紀の森椿園:https://www.pref.tottori.lg.jp/170827.htm
・最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,201