椿の島、伊豆大島にある、とびきりの椿の庭。ここの椿は花だけでなく葉も健やかで美しいのです。
椿の島の美しい椿の庭園
「お勧めの椿園はどこ?」と尋ねられたら、迷わず私は「伊豆大島の椿花ガーデン」をその一つに挙げます。その理由の一つは、多くの椿園が品種の見本園的であるのに対して、この椿花ガーデンは椿を楽しめる「椿の庭園」だからです。例えば、ロゼフローラが並ぶ小径。この椿の花が満開の時、木は枝いっぱいに咲いた愛らしいローズピンク色の花で染まり、落下した花は同じ色で地面を染めます。木の枝からは蜜を求めて飛び交うメジロのさえずりが絶え間なく聞こえ、せわしなく木々を行き交う度に花が揺れる光景を見られます。ほんの数メートルの小径のはずなのに緩やかにカーブしたこの場所を通る時、得もいわれぬ楽しい気分になります。
例えば、大きな藻潮という椿の木。丸く形良い枝ぶりに刈り込まれた大きなこの木は、深緑の葉を程よく茂らせていますが、その葉の合間に赤い繻子のような八重の花が咲くと、圧倒的な美しさを感じます。
例えば、芝生広場に面した森の中の椿たち。あまり人がやってこないこの辺りを歩くと、静かな景色に溶け込んでたくさんの椿が植わっていることがわかります。高い木の下、程よく木漏れ日を浴びて咲く椿の花をたどりながら、こんな椿があった、あんな椿があったと思いながら歩くのは楽しいものです。突然、思いもよらぬ椿の花が眼に飛び込んできて驚かされることもあります。
もう一つ私がこの椿花ガーデンを好きな理由は、この庭の椿たちは、葉艶がとても良く、生き生きと茂っているからです。この庭園の椿を見る時、椿の語源とも言われる「艶葉(つやば)」とはこのことであるかと改めて思います。葉が美しいことが椿の魅力の一つであることは、日本人ならば誰もが思うところでしょう。
このように見所がたくさんあるので、ここに来るといつも3時間くらいすぐに経ってします。今まで何度も来ているのに行く度に新しい発見がある、宝探しをしているような椿園なのです。
9月から4月、そして夏も花咲く椿の庭
ツバキというと冬や春に咲く花だと思うでしょう。日本でツバキというと最もイメージされるヤブツバキやその園芸品種は1月から3月に咲くことが多いので当然ですが、ツバキ科には、夏に咲くナツツバキやヒメシャラ、アザレアツバキ(チャンギー)なども含まれます。またチャの花も秋に咲きますし、秋冬の花であるサザンカもツバキの仲間です。ツバキファミリーは夏や秋にも花を咲くものの結構いるのです。
椿花ガーデンの椿シーズンは8月終わりの「炉開き(ろびらき)」と「西王母(せいおうぼ)」から始まります。炉開きはユキツバキとチャの種間雑種によるツバキの品種で、西王母は短桃色をした人気の花。いずれも極早咲きツバキの品種です。
10月にはヤブツバキの選抜種で早咲きの「小林早生(こばやしわせ)」が園の入り口付近や芝生広場に花開きます。早咲きの椿がこれだけまとまって見られるところは多くはないでしょう。
その後も園内の様々な場所で様々な品種の椿が咲き続け、3月から4月には最盛期を迎えます。春の日差しの中、満開の椿の庭園を歩くのは心楽しいものです。枝先にだけでなく、落ち椿で地を赤く、白く、桃色に染める椿もあります。
初夏にはツバキ科のナツツバキ(シャラ)が白い可憐な花を咲かせます。
7月頃には小笠原に自生する珍しい椿の仲間のムニンヒメツバキ、そして盛夏に花をつけるのはアザレアツバキことチャンギー。
アザレアツバキは真夏の7月や8月を盛りと咲く変わり者です。一般公開されている区域にもアザレアツバキは植わっているので、夏に行ったら探してみるといいでしょう。8月の日差しにも負けない個性的なその花は10月に訪問した時にもまだ残花がありました。
山下さんはここを一年中椿が咲く場所にしたいという大いなる野望(?)を抱いてるようですが、あながちそれは夢ではないようです。
たった一人で国際優秀ツバキ園を作った山下さん
この素晴らしい椿の園を作ったのがたった一人の人物だということに驚嘆します。オーナー兼庭師、ご自分では村長と称される山下隆さんは、数十年をかけて土地を切り開き、椿を植え育て、この庭を作り続けてきました。
私はここのツヤツヤと美しい椿の葉が好きで、そのことを山下さんに言うと「嬉しいね〜」と破顔します。様々な工夫をしているのです。どのような工夫かは実際に山下さんに聞いてみてほしいのですが、その一つが土作りであることは確かです。椿の根元には下の写真のような大きな穴が穿たれて落ち葉や花柄、剪定した枝葉までが投入されています。
また希釈した塩水を木に噴霧することも椿が元気になる工夫の一つのようです。山下さんはそのことを、潮風を受けた後の椿の葉がとても生き生きとして綺麗だったことから気がついたのだと話してくださいました。もともと造園家でも植物の専門家でもなかった山下さんは、長年の経験と観察によって独自に椿を育てる術を学び取って行ったのです。山下さんは美しく健康な椿を育てるために常に試行錯誤を続け、その試みは今も進化し続けています。
さらに山下さんは来園者に御神火太鼓を披露して歓迎し、園内を案内して回るサービス精神も発揮します。このように書くといかにも器用なマルチ人物のようですが、実際はどうでしょうか。ただ間違いなく言えるのは、世界一の椿園をつくりたいという大きな夢を持ち、自分の夢を実現するために熱心に努力し続ける情熱家であることです。その成果の一つは、2016年に国際ツバキ協会(International Camellia Society:ICS)によって国際優秀ツバキ園(International Camellia Gardens of Excellence)に認定される形でも示されました。
咲いていたツバキ
4月
<2018/4/9撮影>
11月
<2017/11/6撮影>
<2021/11/15撮影>
12月
<2017/12/3撮影>
椿だけではない魅力
椿花ガーデンは美しい椿を見られることが最大の魅力ですが、「富士見の丘」と名付けられた広場から海を越えて望む富士は文句なしの絶景です。特に空気が澄んだ冬は雪を頂いた富士山が美しい。椿の花越しに海の向こうの富士山を望む構図はここならではの定番風景です。
昼間だけでなく夕刻も美しいのですが、通常は16:30に閉園してみられません。ただ時折イベントなどで夕刻にいられる場合もあるので、その時は是非稀なる絶景を楽しめるでしょう。
椿だけでなく、春には大島を代表する植物の一つであるオオシマザクラがいたるところで白い花を咲かせて景色を白くふうわりと彩ります。濃いピンクのシバザクラや、愛らしいアツバスミレの群生。5月にはエゴノキ、梅雨から夏は様々な紫陽花、伊豆諸島原産で香り高く大きな花を咲かせるサクユリも園を彩ります。
ここはいつ来ても必ず花が咲いている場所です。
うさぎの森にいるうさぎたちに餌やりをするのは大人も子供も楽しめます。
お土産には焼きたての牛乳せんべいが一番おススメですが、リスまんじゅうも捨てがたい。小さな売店には地元の作家による焼き物や絵葉書などが所狭しと並んでいて、土産物選びに迷います。
椿の島、伊豆大島に行ったのなら、必ず足を運んでほしい場所です。
<訪問:2017年7月25日晴れ、11月6日晴れ、12月3日晴れ、2018年1月30日晴れ、4月17日晴れ>
データベース
【名称】椿花ガーデン
【コレクション】約400種、2000本(2016年2月現在)
【花期】10月咲き始め、3月〜4月頃最盛期
【所在】〒100-0101 東京都大島町元町字津倍付41-1
【備考】
・開館時間や休日: 9:00~15:00(シーズンは16:30)、椿まつり期間中は無休、他の時期は水曜定休日、天候などにより臨時休園。
・問合先:株式会社グリーン企画/ TEL. 04992-2-2543
・オフィシャルサイト: http://tubakihanagarden.com/index.html
アクセス
・伊豆大島元町港もしくは岡田港より東海汽船バス、三原山ラインで椿花ガーデンリス村バス停下車
・車で、伊豆大島元町港から車で約10分 、岡田港から車で約10分。
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参考文献
オフィシャルサイト