堀文子の「太神楽」豆皿

サライ堀文子の太神楽の豆皿

『サライ』(小学館)2020年2月号の特別付録は、日本画家、堀文子さんの絵画『太神楽』を絵柄にした豆皿です。即買いしました。

堀文子さんは昨年(2019年)100歳で亡くなりましたが、長らく雑誌『サライ』において「命といふもの」と題して 絵画と文章を連載されていました。豆皿はその御縁ということなのでしょう。直径9cmの磁器の豆皿に江戸椿「太神楽」の華麗で堂々たる花が咲いています。

画題になっている太神楽(だいかぐら)という椿は、いわゆる「江戸椿」とよばれるもので、江戸時代に日本で生まれ、今でも名花として人々を魅了する古典品種です。紅色地に白斑が入り、牡丹咲きから獅子咲きの華やかな花容をした大輪の花です。

神奈川県大磯の堀さんのご自宅の庭には樹齢100年を超す太神楽の樹があり、堀さんは好んで描いたそうです。

その太神楽について綴られた文章を読みたくて、あらためて『命といふもの』を開きました。そこにはこの椿に対する愛情と尊敬と喜びがあふれていました。

江戸椿の中でも名品の太神楽は気むずかしく孤高の姿勢を崩さない。花は八重のぼたん咲きの大輪で、紅白の斑(はん)が花ごとに千変万化。その美しさにあきることはない。

母が嫁に来る時、祖母が持たせたという私の生家の珍重な木であった。或る大雪の朝。雪に埋もれた庭の植え込みのかげに深紅の色のこぼれるのを見たこれが幼い私と太神楽の出会いだった。この鮮烈な印象は今も目の底に焼き付いている。戦火で焼けた庭に翌年芽吹いているのを見た時の喜び。死を越えて甦ったこの椿の強い命から、敗戦で打ちひしがれていた私がどれほど励まされた事か。

『堀文子画文集 命といふもの』より

2007年の初版時に150年の齢を超えるかもしれないと書かれた木は、それから十余年を過ぎた今、堀さんを見送り、未だ齢を重ねているのであろうか。

赤地が勝るか白斑が勝るか様々ですが、堀さんは「白地に赤、赤地に白。 勢いの盛んな時に白地が勝つようだ 」と述べておられます。そして今年の花の赤の分量が多いのは異常気象のせいか、木の弱りか、と気にかけていたという。

『太神楽』と題された絵の他にも、この椿を描いた作品はいくつかありますが、私は青磁のような青い大きな壺にたっぷりの椿が活けられた『繚乱』(あいおいニッセイ同和損害保険株式会社蔵)も好きです。

絵画に描かれた太神楽は紅白ほどほどの割合の花が多いようですが、実際にこの木の前に立つとき、堀さんは一つ一つの花に目をとめて、斑の入り具合、紅白が綾なす模様をつくづくと眺め、その美しさに心躍らせ、楽しく過ごしていたのではないでしょうか。

一つの椿をじっと見つめ、愛する人のまなざしに触れたように思います。