群馬県山間部、甘楽町にある赤谷平集落の斜面を登り切った場所に聳えるように立つ大椿。樹下に八大龍王と集落の屋敷神が祀られていて、大椿は神々と集落を丸ごと抱えて守る御神木のように思えます。秋畑は明治の町村制施行で生まれた秋畑村(あきはたむら)だった頃の呼び名で、現在は昭和の市町村合併で甘楽郡甘楽町になりました。
赤谷平集落の大椿
ずいぶん昔に一度訪ねたことがあります。山間の斜面にある赤谷平の集落を結ぶ細い葛折りの道を登りに登って辿り着いた大椿はとても老木で、急斜面に堂々と枝を広げて立っていました。樹下には集落で祀る八大龍王と集落の屋敷神を合祀しており、この場所が土地の方々にとって大切な場所であることがわかりました。
あれから20年以上経ち、今はどうなっているのか気になり訪ねてみることにしました。朧ながら昔の記憶と変わらない急斜面を登りきった先に現れた大椿は、さらに老いたようでしたが花も咲かせており健在でした。
葛折の道を登り切った集落の最奥にあたるこの場所は、幾重にも石垣が組まれており、とても急斜面であることがわかります。大ツバキは八大龍王の祠と集落の屋敷神を合祀した祠の背後に築かれた石垣の上に立っています。
というより石垣を飲み込むように根を張り急斜面に立っているのです。幹も根も渾然一体となって斜面と石垣をがっしり掴んでいて、その有り様は逞しさを通り越して、逆境に生きる生命の執念を感じさせます。
祠と大椿の裏側に回ってみると、立ち上がった太い幹の捩や、地上から数十センチで幾重にも分岐した幹がよく見えます。大きなウロや欠損した太い幹もあり、腐食を防ぐために薬剤塗ったような黒々とした跡が痛々しい有り様です。樹皮は白く変じて地衣類の付着も見られ、葉も往時と比べて減っているようです。
咲き終えた花は落椿となって祠の屋根や地面に赤く点々としています。一つだけ枝に残った花を見つけて写真を撮っていると風が吹いて落ちてしまいました。手に取った花は可憐な濃桃色で、黄色い花粉をたくさん蓄えていました。
解説版には大変詳しくこの椿の説明がされています。
樹高約8.4m、胸高周り約5.1m、根元周り約2.6m、枝下高約1.2m、枝張りの東側約5.4m、南側約6.5m、西側約5.6m、北側約5.1m、幹は立ち上がり約70cmで太枝6本に分岐している。
大椿の背後からあたりを眺めると、まるで切畑の大椿の視界を得たようです。広げた枝の下に八大龍王と集落の屋敷神を置き、眼下に集落を置いて、丸ごと抱えて見守っているような気持ちになりました。
樹齢1000年とも言われ地元で大切にされてきた椿ですが、衰弱が見られるようになり、1998年(平成10)に群馬県文化財保存事業「大ツバキ保護養生事業」として、枝の剪定や腐朽部の治療、土壌改良など大規模な治療処置が実施されて樹勢回復がはかられました。
<訪問日:2022年4月3日 曇り>
データベース
【名称】秋畑の大ツバキ
【品種】ヤブツバキ
【大きさ・形状】樹高:約8.4m、胸高周り約5.1m、根元周り約2.6m、枝下高約1.2m、枝張りの東側約5.4m、南側約6.5m、西側約5.6m、北側約5.1m、幹は立ち上がり約70cmで太枝6本に分岐している。
【樹齢】伝承1000年(解説版より)
【花、葉】花形:筒咲き、花径:小輪、5cmほど、花色:濃桃色
【花期】三月中旬から下旬
【所在】群馬県甘楽郡甘楽町大字秋畑2601
【備考】
根元に並んで祭られている祠は、八大龍王(仏法の守護神、水の神)と、集落の屋敷補を合祀したもので、この大ツバキを御神木としている。
指定:群馬県指定天然記念物 1953年(昭和28)8月25日指定
・見学:常時可能
・問合せ:甘楽町役場教育課文化財保護係 電話:0274-64-8324
【公式サイト】
甘楽町公式サイト 群馬県指定文化財秋畑の大ツバキ:
https://www.town.kanra.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/gunma/07.htm
アクセス
甘楽町市街から秋畑方面に向かい県道富岡神流線を行く。学校跡の交差点を右折し県道富岡秋畑線に入り約800mで鋭角に山側に右折する。県道からは徒歩で細い道を250m程登り左側に見える。
参考文献
・現地解説板, 群馬県教育委員会・甘楽町教育委員会, 2002年10月
・甘楽町公式サイト 群馬県指定文化財秋畑の大ツバキ:
https://www.town.kanra.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/gunma/07.html
・甘楽町公式サイト 沿革:https://www.town.kanra.lg.jp/kyouiku/bunkazai/news/07.html