【椿の名所】法然院の三銘椿

静かな佇まいの法然院の中庭には「三銘椿」と呼ばれる椿があります。五色散り椿、貴椿(あてつばき)、花笠椿です。中庭には他には何も植えられていないこの場所は三銘椿のためのもの。だから「椿の庭」と呼ばれるのでしょう。

五色散り椿、貴椿、花笠椿

法然院の本堂北側の中庭、そこに3本の椿が整然と並んでいます。

法然院中庭の三銘椿 20170405
法然院中庭の三銘椿 20170405

中庭は春と秋の特別公開の時のみ見ることができます。細長い中庭に一列に並んだ椿は、写真の奥から五色散り椿、貴椿(あてつばき)、花笠です。

五色散り椿の花は、紅色、桃色、白、紅地に白斑が入った八重咲き。

貴椿は、白か白地に紅色の絞りがわずかに入る花で、大輪の八重咲き、散り性。花弁は3重ほどに重なり、筒芯で花糸は白い。葉は濃緑色の楕円形から広楕円形で大きく、葉の縁が反曲して少しよれる。木は立ち性、伸びはやや遅く、樹勢はふつう。法然院の木が原木。(『現代椿集』より)

花笠は、赤花と紅地の絞りが入ったものがあり、大輪の八重咲き。3月中旬から4月中旬に咲く。葉はよじれて葉柄は無毛。木は立ち性で樹勢はよい。法然院の木が原木。原木は地上1m余で二股に分かれて、根本近くに接ぎ木の跡が見られる(『現代椿集』より)

五色散り椿が最も大きく、貴椿と花笠はやや小ぶりです。1965年(昭和40年)の『椿春秋』にはこの3木の大きさが載っていて、五色散り椿は根元の最大径43cm、樹高約5.5m、貴椿は根元の最大径15cm、樹高約5.0m、花笠は根元の最大径10cm、樹高約45mとあります。

いずれも古木ですが正確な樹齢はわかりません。法然院は延宝8年(1680)に法然上人ゆかりのこの地に忍澂(にんちょう)和尚によって伽藍の基礎が築かれたことが始まりとされるそうなので、植えられたのはそれ以降でしょう。

五色散椿 法然院 20170405
五色散り椿 法然院 20170405
五色散り椿 法然院 20170405

本堂の椿散華

本堂の本尊阿弥陀如来には季節の花が散華されます。散華とは仏を供養するために華を散布すること。椿の季節は当然椿。3月から4月は庭の三銘椿が捧げられます。花の数は決まっていて25です。二十五菩薩を象徴して二十五花散華されます。

本堂の床に整然と花首が並べられる様は撒き散らされるイメージとは程遠いのですが、静かで気品のあるのに、どこかなまめかしさも感じます。花の命を惜しげもなく捧げて供養するからなのかもしれません。撮影禁止なので心の中に焼き付けます。

私がこの椿の散華を初めて知ったのは、水野克比古氏の写真によってでした。素晴らしいその光景を目の当たりにできてとても厳かで満ち足りた気持ちになりました。

水野克比古「法然院の四季」2005より 本堂

1972年発行の『現代椿集』の解説には、

290年前から御仏に献茶式が毎年行われ、上の3椿(筆者注:五色散椿、貴椿、花笠のこと)を仏前に備えることが現在も続けられている。

『現代椿集』

とあります。

伽藍内や境内には、椿の花が水盤に浮かべてあったり、手水鉢に椿の花が添えられていたりと、目を楽しませてくれます。実物の木では花を見られなかった時は水盤に埋め尽くすほどの花を楽しむことができました。

参道の落ち椿、裏坂の古木椿、生垣の椿

法然院の周りにはヤブツバキが多く見られます。以前は「法然院はヤブツバキの巨木で囲まれ、参道の落花が美しい」(「京椿」より)という様相であったようですが、今でも参道や境内、敷地を囲む生垣に大きな椿が見られます。

参道の緩やかな石段いっぱいに紅椿の花が落ち、その向こうに山門が立つ光景は、古式ゆかしく静かな法然院にぴったりです。私は写真で見るほどの椿の花で飾られた石段を見たことはありませんが、幾つかの椿が落ちているだけでも素敵です。

法然院20200324
法然院20200324

参道を進み石段を登った上に設置された山門。

法然院山門20170405
法然院山門20170405

ここをくぐると、白砂壇(びゃくさだん)が現れます。美しい盛り砂は水を表しており、この間を通ることで心身を清めることを意味します。

法然院20200324

初めて行った時には三銘椿と石段の落ち椿で気持ちがいっぱいになっていて気がつかなかったのですが、山門を出て右手の裏坂を降りる途中で大きな椿の木が見られます。

法然院の椿の古木20200324

法然院は総門へ至る階段も、生垣も、墓地にもヤブツバキがたくさん自生しています。春の朝に訪ねた時、参道を歩くと濃い緑の山に抱かれた一帯は、しっとりと水気を含む清涼な空気によって包み込まれており、さえずる鳥の声や木漏れ日が心地よく、静かでゆったりと気持ちになれます。緑に紛れて鮮紅色のヤブツバキの花がそこかしこで咲いていました。

法然院総門20200324

<訪問日:2017年4月曇天 、2020年3月24日晴天>

データベース

【名称】法然院の三銘椿
五色散り椿、貴椿(あてつばき)、花笠椿
【大きさ】1965年(昭和40年)
・五色散椿:根元の最大径43cm、樹高約5.5m
・貴椿:根元の最大径15cm、樹高約5.0m
・花笠:根元の最大径10cm、樹高約4.5m
【花期】 3月下旬から4月中旬
【所在】〒606-8422 京都市左京区鹿ヶ谷御所ノ段町30番地
【備考】
・拝観時間:法事のない6:00~16:00に、本堂前までの参道を開放(本堂は縁側からの参拝)
・4月1日~7日と11月1日~7日の伽藍内特別公開期間のみ中庭の等見学可能
・問合わせ先:E-mail: Byakurenja@aol.com TEL: 075-771-2420
【公式サイト】http://www.honen-in.jp/

アクセス

  • JR京都駅・京阪三条駅より、市バス5系統岩倉行にて浄土寺下車、山に向かって徒歩10分
  • 阪急四条河原町駅より市バス32系統銀閣寺前行にて南田町下車、山に向かって徒歩5分

参考・引用文献

  • 法然院パンフレット
  • 法然院公式サイト:http://www.honen-in.jp/
  • 水野克比古写真 京椿,写真:水野克比古、文:渡邊武,京都書院,1991
  • 水野克比古写真集 京・古社寺巡礼8 法然院の四季,水野克比古,東方出版,2005
  • 椿春秋,三浦伊八郎,地球出版,1965
  • 現代椿集,日本ツバキ協会,講談社,1972