伊予つばき名花展(萬翠荘)2024

伊予つばき名花展(萬翠荘)2024

毎年1月から4月の椿の開花時期に合わせて全国各地で椿展が行われますが、愛媛県の伊予つばき協会は2月に伊予つばき名花展(萬翠荘)と3月に松山城二之丸椿名花展と年に2回の椿展を開催しています。特に2月は会場が歴史ある萬翠荘ということもあり、華やかな椿展です。いつかゆきたい憧れの椿展でしたが2024年に念願が叶いました。

萬翠荘(ばんすいそう)

萬翠荘は、1922年(大正11年)に旧松山藩主の子孫にあたる久松定謨(ひさまつさだこと)伯爵の別邸として建設されました。フランス生活が長かった定謨伯爵の好みによってフランスに作られた建物は、1階は広間、謁見の間、食堂(晩餐の間)など、2階は居間、寝室などで、当時最高の社交の場でした。裕仁親王(昭和天皇)の松山訪問に合わせて完成を急がせたとのことで、その後も皇族滞在の場所として使用されました。

設計者の木子七郎(きごしちろう)は建設にあたりヨーロッパを数ヶ月間遍歴して学び、デザイン、構造、調度、装飾など全てを第一級品で設えました。屋根の頂部は銅板、その下の急勾配は天然スレート葺という20世紀初頭に欧州を風靡したアールヌーボーの作風となっています。一方で日本人の感覚にも合わせてか、建物は完全な左右対称ではなく左右非対称で構成されています。地上3階地下1階、愛媛県で最も古い鉄筋コンクリート造りです。

室内の華麗さは内装に使用される素材や調度品の一つ一つの積み重ねが作り出しています。

正面の車寄せから階段を上って玄関に入ると、吹き抜けの玄関ホールの正面に2階へと続く階段とその先のステンドグラスの大窓が飛び込んできます。明るく大きなステンドグラスは海と船の図柄で開放感があります。

玄関の床は大理石、正面階段の手すりは継ぎ目の無い南洋チーク材の一本木。玄関ホールの天井まで伸びる薄紅色の柱は岡山産の通称紅桜と言われる万成石(まんなりいし)で、その紅桜のような色合いがなんとも言えない温かみと華やぎを感じさせます。各部屋には色の異なる大理石で造られたマントルピース、シャンデリアを彩るクリスタルは水晶によって作られたもの。一つ一つが技術と美の粋を集めた工芸品なので見ているだけでため息がでます。建築費は当時の金額で約30万円といわれます。

戦禍を免れた萬翠荘は、建築当時の様子をそのまま残す貴重な建築物として1985年(昭和60年)に愛媛県指定有形文化財に、2011年(平成23年)には萬翠荘本館と管理人舎の2棟が国重要文化財に指定されました。敷地は松山藩の家老屋敷跡地で、夏目漱石が山中学の教師として赴任した折に下宿していた場所でもあります。

伊予つばき名花展

美術品のような萬翠荘の室内で行われる伊予つばき展は、内装と椿花が華麗さを競う椿展です。会場は謁見の間と晩餐の間。入り口でウエルカムボードが出迎えてくれました。

謁見の間は白と金の色調で、白い大理石のマントルピースの上の大きな鏡は室内をより明るく広く見せ、金のシャンデリアや燭台風の照明は白亜の室内に華麗に映えています。陽光が燦々と入る明るい部屋には、白いクロスをかけたテーブルが並べられ溢れるばかりの椿がとりどりの花を咲かせています。

まず中央のテーブルに無数に並べられた一輪挿しの華やかな椿花に心を奪われました。入り口から右手に目をやると、すぐ目の前に咲くのは伊予新花である「玉媛(たまひめ)」、まるでこちらを見て「いらっしゃい」と声を掛けてくれたかのよう。玉媛は会員宅で「玉の浦」の樹下で生まれた実生の品種で、紅色に玉の浦譲りの白覆輪が鮮やかな八重咲き、獅子咲きの中〜大輪(10〜13cm)の花。伊予つばき協会と日本ツバキ協会で新花登録されています。

麗しい室内に勝るとも劣らない展示花は会員が手塩にかけた椿たちです。伊予名花の品種も数多く並び、椿処伊予のご当地感がたまりません。中でも2022年に新花登録された「子規(しき)」と「律(りつ)」の実物を見たのは初めてで、それも誕生の地で見る事ができたことに感慨を覚えました。

謁見の間の最奥は鉢植えの後に会員の描いた椿絵がずらりと並ぶ花ざかりのコーナー。

そこから続き部屋の晩餐の間へ入ると落ち着いた雰囲気に変わります。

椿油づくり紹介展示

晩餐の間で鉢や苗木販売に混じって目を引くのは椿油づくりの展示。これは昨年(2023年)12月5日に行われた伊予つばき協会の椿油づくりイベントのレポートです。初の試みだったにも関わらず事前の研究と準備の甲斐あって大成功だった椿油作り。私も楽しく参加してきました。

椿油を作る手順とポイントが見やすく分かりやすくパネルにまとめられています。興味津々といった感じでじっくり見ている方もいました。椿は美しいだけでなく実用性もあることを知ってもらえて、椿をより身近に感じることのできる良い展示だったと思います。

椿の実の殻などで作ったリース、折り紙の椿など、様々な作品も綺麗にディスプレイされていて見所たくさんです。苗木の販売も来場者の人気を集めていました。

伊予つばき協会の椿展は、育成した見事な花を鑑賞するだけでなく、作品を飾ったり、椿油づくりの発表をしたり、会場を美しくディスプレイする工夫をしたりと、会員一人一人が椿を通じて思い思いに自分の楽しみ方を満喫していることを感じて、見ている方まで楽しくなる素敵な椿展でした。

毎年の展示品種や内容は会誌「伊予つばき」に展示図で掲載されます。

 

見ることのできたツバキ

<第48回伊予つばき名花展 ~萬翠荘展~>

開催日時:2024年2月12日(月)~2月8日(日)、9:00~18:00(最終日15:00)

場所:萬翠荘 〒790-0001 愛媛県松山市一番町3-3-7

無料(ただし萬翠荘入場料は別途必要)

 

<訪問日:2024年2月17日 晴れ>

 

参考文献

・萬翠荘公式サイト:http://www.bansuisou.org/

・伊予つばき 39号,脇塚耀子,伊予つばき協会,2020

 

 

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