【椿の名所】伊豫豆比古命神社の椿と椿まつり

【椿の名所】伊豫豆比古命神社の椿と椿まつり

御鎮座二千数百年という伊豫豆比古命神社(いよずひこのみことじんじゃ)は「椿神社」や「お椿さん」の愛称で親しまれます。旧暦正月八日とその前後の3日間に行われる「椿まつり」は伊予路に春を呼ぶ四国最大の祭りとして例年大変に賑わいます。

神社名の由来は、かつて「津(つ:港、船着場のこと)」のそばにあるから「津脇(つわき)」といわれたとか、椿が多く自生する「椿の森」神社といわれたことによるなどと伝わるそうです。

春を呼ぶ「椿まつり」

「椿まつり」は伊豫豆比古命神社の春祭のことで、旧暦1月7日、8日、9日、現在の太陽暦だと2月上旬に行われます。元々は「立春に近い上弦の月の初期」と月齢により定められた祭事であることは興味深いところです。太陽暦の今は毎年少しずつ斎行日が変わります。訪問した2024年は2月16日(金)、17日(土)、18日(日)でした。来年2025年は2月4日(火)、5日(水)、6日(木)です。

椿まつりは、初日の午前0時に大太鼓が開始を告げて開門してから最終日の午後12時までの72時間、昼夜を徹して続きます。中日の旧暦八日は神社のさまざまな祭典があり、また中日の夕刻には御祭神を御輿で末社の一つ金刀比羅神社の御旅所まで御神幸(ごしんこう)願う「お忍びの渡御(とぎょ)」や、渡御の際にその道筋にあたる家々で正月の輪締め等を篝火として焚きお迎えする「合せ火」があります。また少額の「守り金」を借りて翌年倍額お返しする「貸銭神事」という行事もあります。

例年3日間で50万人もの参拝者が訪れるため周辺は交通規制が行われていますが、行き交う人でいっぱいです。参道にはびっしりと屋台が立ち並び、灯が灯され、賑々しく活気に溢れています。お忍び渡御を拝見したかったのですがあまりの人混みに気圧されて今回は断念しました。

本殿格天井の椿絵と欄間の椿

椿まつりの人混みが嘘のように平素の椿神社は静かです。別日にお参りした時は平日で雨天ということもあって人影はまばらでした。本殿で神事も行われておらず、ゆっくりお参りし、本社拝殿の天井の椿絵や欄間の彫刻を拝見できました。(写真は許可を得て撮影しています)

拝殿の格天井の鏡板の一枚一枚には椿の花が描かれていて、その華麗さ、鮮やかさ、迫力に息を飲みました。椿の花は同じ絵はないのではと思われるほどさまざまな花容をしています。地の部分の板目の上に咲く鮮やかな椿は、紅、濃紅色、濃桃色、薄桃色、白、紫、黄色、さらに白斑や絞り、底紅のものなど多彩です。もちろん花形も、一重、八重、千重咲き、唐子など多様で、椿一種で百花繚乱の様相です。

この椿天井絵は2013年のご鎮座2300年式年大祭に合わせて奉製されたもので、90面全て異なる90種類の椿絵であると神社の方から教えていただきました。椿絵は境内に植栽された品種と神社にゆかりの品種などを鑑みて90種を整えたのだそうです。京都嵐山のハンドクラフト州洋によって奉製されました。

拝殿の椿天井絵の品種も教えていただきましたので、ご親切に感謝して以下に列挙します。

(神前30枚)

雪、千寿、日月星、月の輪、祝い盃、東方朔、聖、蝦夷錦、大虹、乙女、愛々傘、肥後、京錦、紅孔雀、岩根絞り、緋色沖、島の娘、鶏の子、港の曙、鹿島白、鬼百合、玉之浦、白雪、書院、師人、太神楽、一枝月、南山、綾錦雪、雲南

(後面60枚)

つばめ返し、桃源白、高蔵紅、絞り紅藪、遠茜、王冠、大原の里、以津の夢、吉備、明石潟、三浦乙女、美鈴、白一重金魚葉、港の桜、日の丸、若楓、小公子、輝国の春、胡白蝶、初瀬山、片山宗旦、炎の舞、茶々姫、宝専、加茂本阿弥、弁慶、臘月、紫の上、清香、錦の峰、堀の内、笹舟、大山紅、天賜、珊瑚閣、黒、宝授盃、大紅、白八朔、一子佗助、瑞耀、見沼の春、人麿、赤初嵐、鶴形、無音の雪、紅千鳥、一福、夫婦星、太田、まりこ、昂、白比咩、山娘、琴姫、羽衣、浅春、伊予呼子鳥、椿寒桜、沖の浪

改めて品種名を並べると壮観です。古典品種から近現代の品種、松山ゆかりの品種をはじめ日本全国各地で生まれた品種が幅広く揃っています。初めて名を聞く品種もいくつもあります。

次回のお参りの際には、境内に花咲く頃に天井絵の品種を探したり、神社にゆかりの品種はどれかを探してみるのも楽しそうです。

欄間彫刻の椿

本殿と拝殿を隔てる欄間には、玄武、朱雀、青龍、白虎の四神獣が一神ずつ彫られた4つの欄間彫刻があり、それぞれに椿の花が一輪ずつ添えられています。欄間彫刻は椿の花の部分にのみ色彩が施されており、玄武と朱雀は赤い一重の椿、青龍と白虎には白い一重の椿が薄暗い拝殿の中で鮮やかに咲いていました。

伊豫豆比古命神社(椿神社)欄間 白虎 朱雀
欄間 玄武
欄間 青龍

椿の彫刻は楼門の天井にも見ることができます。楼門の天井も格天井になっており、それぞれの鏡板に丸円がつくられて、中に椿が、鳥や牛、植物、水門などを組み合わせた図案で透かし彫りになっています。天井が高くて見えにくいのですが、とても繊細な細工のようです。いずれも愛媛県西条市、石水彫刻所の奉製です。

伊豫豆比古命神社(椿神社) 楼門の天井彫刻

他にも椿神社では椿の意匠を見かけます。御神紋は椿の図案ではないようですが、椿にゆかりの神社らしいと感じます。境内にどんな椿文様があるか探すのも楽しみの一つです。

椿梼殿(御祈祷控え室)の天井も美しく椿絵が飾っているようですから、いつか拝見したいと思います。

御祭神について

伊豫豆比古命神社の御祭神は、湯の国の主祭神の意味を持つ伊豫豆比古命(いよずひこのみこと・男神)、その妻神の伊豫豆比売命(いよずひめのみこと・女神)、伊豫の主人を意味する伊与主命(いよぬしのみこと・男神)、見目麗しい愛比売命(えひめのみこと・女神)の四柱です。

境内には船山という場所がありますが、これは『往古、伊豫豆比古命・伊豫豆比売命の二柱の神様が舟山に御舟を寄させ給い、潮鳴栲綱翁神(しおなるたぐつなのおきなのかみ)が纜(ともづな)を繋いでお迎えした。』との伝説が残されており、かつて神社周辺は海で二柱の神々を船でお迎えしたので『津(つ:港・船着場のこと)の脇の神社、「つわき神社」がいいつしか訛って「つばき神社」となった、という説があります。

一方で古来より一帯には椿が多く自生していることから、「椿の神社」「椿神社」と呼ばれるとの説もあります。

名の由来といえば、愛媛県の名称は愛比売命に由来し、当地の椿友は「神様のお名前をいただく県は愛媛県だけなのですよ」と誇らしげに教えてくれました。

ご利益は縁起開運、商売繁昌、大漁豊満などさまざまです。私も椿や椿を通じた方々とのご縁、椿旅の無事を願ってお守りを授かってきました。

椿まつりの椿菓子

お椿さんに合わせて出る屋台には椿まつりに因んだお菓子も並びます。春泰堂の椿まんじゅう、椿餅(椿神社の葉を使用)、一六本舗の縁起どら焼き(開運を願う文字と椿の花の焼き印されている)、冨久椿・・・。この時しか買えない椿菓子もあり、どれを選ぶか悩ましいところです。

 

<訪問日:2023年12月5日 雨、2024年2月17日 晴れ>

データベース

【名称】伊豫豆比古命神社

【所在】〒790-0934 愛媛県松山市居相2丁目2−1

【備考】

・いつでも参拝可能。社務所は午前9時~午後4時頃。

・問合せ:公式サイトより専用フォームでメール、TEL 089-956-0321

【公式サイト】https://tubaki.or.jp/index.php

 

アクセス

・松山市駅からバス「市坪・はなみずき線古川北二丁目行」で約20分、古川横田下車、徒歩10分。

・松山市駅からバス「砥部線」で約20分、椿前下車、徒歩12分

 

参考文献

伊豫豆比古命神社略記(椿神社)

伊豫豆比古命神社公式サイト:https://tubaki.or.jp/index.php

石水彫刻所公式サイト:https://saijo-horishi.jp/%E4%BC%8A%E8%B1%AB%E8%B1%86%E6%AF%94%E5%8F%A4%E5%91%BD%E7%A5%9E%E7%A4%BE%E6%A4%BF%E7%A5%9E%E7%A4%BE/

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伊豫豆比古命神社(椿神社):https://www.instagram.com/tsubakijinja/

 

 

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