「椿寺」と呼ばれるお寺は他にもありますが、誰もが思い起こす椿寺といえばここ京都の浄土宗寺院昆陽山地蔵院ではないでしょうか。椿寺の愛称はこの寺にある五色八重散椿に由来することに他なりません。今この寺にあるのは二代目の椿です。
地蔵院の五色八重散椿は加藤清正が朝鮮から持ち帰り、豊臣秀吉が献木したと伝わる椿です。樹齢400年であった初代は、残念ながら1983年(昭和58年)に枯死しました。現在の樹は二代目。2009年の公式ブログの記事で樹齢約120年とあったので、2020年の今年は、樹齢約130年ですね。
二世の五色八重散椿は地蔵院の門を入るとすぐ目の前に現れます。本堂の前に生垣に守られて立つ椿はこじんまりした境内が窮屈に見えるほど、堂々と大きな椿です。
大きく枝を広げて葉を茂らせています。花はその葉が見えないほどびっしりと木全体に咲いており、咲き終えた花は根に散り敷き地面を覆い隠しています。花は、白、赤、ピンク、絞りなどに咲き分け、八重の花弁は一片一片離れてパラパラ散ります。
まったく驚くべき光景でした。
これまで幾度も足を運んだもの花盛りを見逃していて、ようやく出会えた満開の五色八重散椿は、とにかく圧倒的な花の量で、しばらく立ち尽くしていました。
五色八重散椿の縁起
地蔵院の公式ブログ「椿寺だより」によると、この散椿は加藤清正が朝鮮出兵(1592年文禄の役)の際に、蔚山(ウルサン)より持ち帰ったもを豊臣秀吉に献上し、その後秀吉から地蔵院に献木されたと伝わるそうです。秀吉が散椿を献木された理由は、地蔵院を北野大茶会の際に使用したこと、秀吉自身が地蔵信仰に厚かったからと伝わるそうです。
(五色八重散椿の縁起2009年 02月 28日https://jizouin.exblog.jp/10991356/より)
毎年このように咲いているのかはわかりません。下は他の年の様子です。
速水御舟「銘木散椿」のモデル
私がこの椿を初めて知ったのは、実物ではなく速水御舟の「名樹散椿」(山種美術館蔵、重要文化財)でした。金地の二曲一双屏風の画面いっぱいに椿の古木が描かれていました。流れる枝ぶりは動きがあり力強く、樹形は美しく、一つの木に様々な花が咲き分ける様子は金地とあいまって華やかでした。屏風図に椿という古典的な題材の日本がでありながら、その新しくて美しい椿の姿に、それまで知っていたのとは全く違う椿の貌を見た気がしました。
速水御舟が描いたのは今、地蔵院にある椿ではなく、枯れてしまった初代の五色八重散椿です。描かれた椿とは樹形も大きさも違います。絵のモデルとなった木があると知り、いつか見に行きたいと思っていましたが実物を見る前に枯死してしまい、とても残念です。制作年は1929年(昭和4)
昨年の2019年は速水御舟の生誕125周年でした。御舟作品を多く所蔵する山種美術館は記念展覧会「生誕 125 年記念 速水御舟」(2019年6月8日〜8月4日)を開催、所蔵する御舟コレクション120点も公開されました。
改めて「銘木散椿」を見て、圧倒的な存在感を感じました。制作年は1929年(昭和4)ですが、今なお新しい感覚で見られる絵です。
二世の木はあまり剪定をしていないので小山のように茂っていました。とにかく元気です。初代よりも長生きしてほしいと思います。
中庭の二世五色八重散椿
中庭にある数本の五色八重散椿も同じく花盛りを迎えていました。
境内の椿たち
境内には五色八重散椿とは別に園芸品種らしきツバキが幾種類か見られます。これらがすでになのある品種なのか、五色八重散椿の実生なのかわかりません。地蔵堂前にはきりりと美しい赤いツバキが咲いてました。
地蔵院のこと
浄土宗寺院昆陽山地蔵院は桓武天皇の勅願により行基が神亀3年(726年)に創建した古刹です。その後移転や喪失を経て、足利義満が仮堂を建て、豊臣秀吉により現在地に建立されて今に至ります。境内には天野屋利兵衛の墓所や与謝蕪村の師、夜半亭巴人(やはんてい はじん)の墓所や句碑があります。
<訪問日:2020年月日晴天>
データベース
【名称】地蔵院の五色八重散椿
【樹齢】約120年(一世は400年、枯死)
【花、葉】花形:八重五色散椿、花径:中輪、花色:紅色、白、桃色、白地縦絞、覆輪などの花を咲き分ける。
【花期】 3月下旬〜4月の中旬
【所在】〒603-8332 京都府京都市北区大将軍川端町2
【備考】
・拝観時間 9:00~16:00、拝観料 無料
・住所 〒603-8332 京都府京都市北区大将軍川端町2
・問い合わせ:電話 075-461-1263
【公式サイト】公式ブログ椿寺だより:https://jizouin.exblog.jp/
アクセス
- 京都市営バス「北野白梅町」より徒歩3分。
京都駅から京都市営バス50, 205号系統
または四条河原町から京都市営バス10, 15, 51, 203号系統
または京阪三条から京都市営バス10, 15号系統
参考文献
- 地蔵院案内板
- 「椿寺地蔵院のいわれ」チラシ
- ジャパンカメリア シリーズ銘樹・古木 五色八重椿,飯牟禮五郎,日本ツバキ協会
- 地蔵院椿寺公式ブログ 椿寺だより(jizouin.exblog.jp)
- 現代椿集,日本ツバキ協会,講談社,1972