神奈川県北西部に広がる丹沢大山山地の麓にある神奈川県自然環境保全センターは、県の自然環境保全、林業の振興に係る試験研究の拠点ですが、敷地内にある樹木観察園の一角にツバキ園があります。園内は若干の傾斜はあるものの歩きやすく整備され、かつ植栽の間隔が程よく開いているので、木に近寄って花を観察できるのが魅力です。植栽された園芸品種131種(2021年現在)は古典品種が多く、幹回り数十センチの古木が揃います。
神奈川県自然環境保全センター
ここは神奈川県の豊かな自然を次世代に引く継ぐために、林業試験場など5施設を統合して2000年に設立された施設です。丹沢大山をはじめとした自然環境の保全・再生の研究や事業、傷病鳥獣の受け入れが行われています。そして来場者は自然観察園や樹木観察園などの野外施設での自然観察、室内展示、自然とのふれあうイベントなどを通じて、自然との関わり方や自然環境の保全と再生について学習することができます。建物内には図書室も完備されていて利用することができました。
こうした施設の性格上、園芸品種主体の椿園があることが不思議だったですが、行って更にびっくり、大変充実したコレクションの古木椿を有する素晴らしいツバキ園でした。訪問時は地面が冬枯れの枯れ草に覆われていましたが、定期的に下草刈りや剪定などの手入れを行なっていることが見受けられます。名札もほとんどの木に付けられていて管理は十分されています。

ツバキ園の成り立ちとガイド情報
ここに植栽されたツバキは1968年に大磯の研究施設から移植造成されたものだそうで、できてから半世紀以上経っています。
驚くべきは公開されているツバキ園に関する情報です。品種ごとに花形、色、開花時期の一覧表とツバキ園内の配置図がインターネット上で公開されています。これほどきちんと整備した情報を公開している椿園は多くはありません。更にツバキの花色や形の特徴の解説、ツバキに関する植物学の基本情報、ツバキと人の関わりなどの読み物情報があり、訪問時には必ずダウンロードして持参して欲しい優れた情報です。(神奈川県自然環境保全センター ツバキ 観察ガイド)
この観察ガイドの元になった資料は、2001年にまとめられた「自然環境保全センター椿園のツバキ品種目録」のようで、椿園の成り立ちが書かれています。それによると椿園は、1968年(昭和43)に大磯にあった自然環境保全センター研究部(旧林業試験場)を移転する際に移植した品種により造成し、1978年(昭和53)の記録では163品種355本があったとのことです。品種名は『日本椿集』(津山尚・二口善雄、1966)によるとのことでした。今ではあまり見かけない品種や、聞いたことのない品種もあり、昭和の椿園芸の隆盛期が偲ばれます。
以下に品種名だけ列挙します。
品種名のリスト(50音順)
明石潟、赤臘月、秋の山、曙、天の川、綾川絞、荒獅子、伊豆の日暮、岩根絞、歌枕、夷錦、応総寺(オオエンジ)、大唐子、大白玉、大虹、沖の石、乙女、阿蘭陀紅、限り、神楽獅子、鹿児島、笠松、加茂本阿弥、唐糸、狩衣、寒椿 、菊冬至、紀州司、君が代、京唐子、京牡丹、錦魚椿、銀世界、熊坂、黒椿、見驚、源氏唐子、源氏車、碁石、紅乙女、紅獅子、紅牡丹、古金襴、黒龍、黒龍紋(コクリュウシボリ)、御所車、小紅葉、崑崙黒、黒佗助、盃葉、四海波、獅子頭、日月、絞唐子、絞繻子、絞臘月、繻子重、酒中花、春曙紅、昭和の曙、 昭和の誉、蜀紅、白菊、白玉、白玉絞、白佗助、数奇屋、鈴鹿山、墨染、草紙洗、染川、多福弁天、玉垂、玉牡丹、太郎冠者、千年菊、朝鮮椿、蝶千鳥、蝶の花形、月見車、鶴の毛衣、天人松島、唐錦、鶏の子、錦重、抜筆、能牡丹、白乙女、白雁、白獅子、白太神楽、白牡丹、羽衣、初瀬山、花車、花橘、春の台、光源氏、日暮、一重弁天、一筋、緋の蓮花、仏蘭西白、紅荒獅子、紅唐子、紅車、紅千鳥、紅妙蓮寺、紅佗助、弁天、弁天神楽、ト伴、星車、不如帰、本村白、舞麒麟、窓の月、三浦乙女、眉間尺、峰の雪、都鳥、妙高、妙蓮寺、無類絞、紅葉狩、紋繻子、藪椿、雪牡丹、雪見車、横川絞、乱拍子、両面紅、和歌の浦、鷲の山
「自然環境保全センター椿園のツバキ品種目録」より
ツバキ園の様子
初めて訪問したのは1月の後半、この時期に開花期を迎える菊冬至、紅侘助、数寄屋が美しく咲きそろっていました。どちらの花も花形が整い、色が美しい花です。

- 紅侘助 神奈川県自然環境保全センター20250125
- 数寄屋 神奈川県自然環境保全センター20250125
ことに真っ盛りを迎えつつある数寄屋の花は、淡桃色の地色に入る淡紅色のぼかしが非常に鮮やかで、美しいアクセントとなっていました。
- 数寄屋 神奈川県自然環境保全センター20250125
- 数寄屋 神奈川県自然環境保全センター20250125
1968年に移植されたとのことなので樹齢は40年以上と思われます。実際に幹回りを測ってみると、地上40cm付近で58cm、そこから三又に別れたそれぞれの太さは31cm、33cm、38cmでした。
紅侘助は数本あり、高さは2〜3mくらいに詰めてありましたが、幹を見るとかなり太く、地上50cm付近で75cmあります。そこから二股に分かれて40cm以上の太さです。
立派な太郎冠者の古木がありこちらも大きさは、地上45cmで75cmくらい、そこから2本に分かれた幹はそれぞれ40cmくらい。蕾が膨らみつつあったので2週間に再度尋ねると満開を迎えつつあります。記録的な寒波という今年、寒さが厳しいせいか、花は咲く傍から茶色く枯れてしまうようですが晴れた空に明るい桃色の花は美しく映えていました。
- 太郎冠者 神奈川県自然環境保全センター20250208
- 太郎冠者 神奈川県自然環境保全センター20250208
見ることのできたツバキ・サザンカ
1月
<2025/1/25>
- 菊冬至 神奈川県自然環境保全センター20250125
- 小紅葉 神奈川県自然環境保全センター20250125
- 紅侘助 神奈川県自然環境保全センター20250125
- 数寄屋 神奈川県自然環境保全センター20250125
- 妙蓮寺 神奈川県自然環境保全センター20250125
2月
<2025/2/8>
- 紅乙女 神奈川県自然環境保全センター20250208
- 白侘助 神奈川県自然環境保全センター20250208
- 舞麒麟 神奈川県自然環境保全センター20250208
- 秋の山 神奈川県自然環境保全センター20250208
<訪問日:2025/1/25(土)晴れ、2025/2/8(土)晴れ>
データベース
【名称】神奈川県自然環境保全センター ツバキ園
【コレクション】 131種(2021年現在)
【花期】12〜4月
【所在】〒243-0121 神奈川県厚木市七沢657
【備考】
・開館(見学)時間:9時~16時30分、入園料無料
・定休日:月曜日(祝休日は開館)、祝休日の翌日(土曜日を除く)、年末年始(12月28日から1月4日)
・問合せ:046-248-0323(代表)
【公式サイト】https://www.pref.kanagawa.jp/docs/f4y/top.html
アクセス
・小田急線本厚木駅、愛甲石田駅、伊勢原駅から、神奈川中央交通バスで30~40分、「馬場(ばんば)リハビリ入口」バス停で下車、徒歩約10分
参考文献
・神奈川県公式サイト 神奈川県自然環境保全センター:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/f4y/top.html
・神奈川県自然環境保全センター 研究企画部:https://www.agri-kanagawa.jp/kenkyu_top.asp
・神奈川県公式サイト 神奈川県自然環境保全センター ツバキ 観察ガイド
・自然環境保全センター椿園のツバキ品種目録,田村淳、三橋正敏、神自環保セ研報30(2002)35-39
・最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,2010