【椿の名所】小石川植物園

【椿の名所】小石川植物園

江戸時代には小石川療養所、明治に東京大学付属の植物園となった小石川植物園。日本最古の近代植物園です。ここにはツバキ園が独立してあるほか、園内随所にツバキ、サザンカの園芸品種や原種が点在しています。春には園芸品種のツバキの花、秋にはサザンカやチャの花を楽しめるのは勿論ながら、春の桜並木、秋の楓並木も素晴らしい。そして「ニュートンの林檎」「メンデルの葡萄」「精子発見のイチョウ」など歴史的に意義深い植物を見られるのも此処ならではの楽しみです。

日本最古の植物園にあるツバキ園

「小石川植物園」の名称で親しまれるここの正式名称は「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」。植物学の研究・教育を目的とする場所ですが、憩いの場所としても一級の都内のオアシスです。私はいつも入場してまずはツバキ園を目指します。ここには主に園芸品種のツバキが集められているのですが、小石川植物園が植物学の研究・教育施設であることを考えると、ツバキに特化して園芸品種を集めたツバキ園があることはやや不思議な気がします。また園内各所で他の植物に比べてツバキ属の原種が多く見られることも同様に不思議です。どのような経緯があったのでしょうか。

カエデ並木を通って公開温室の前を通り過ぎ、「精子発見のイチョウ」の手前の右手にツバキ園があります。ロープで囲まれていますが、切れ目があって、そこからツバキ園に入る事ができます。

ツバキ園の大部分はクスノキの巨木が枝を広げる下に広がっているので鬱蒼として薄暗いので、たいていの方は中に入らずに外側に面した枝に咲いた花を外側から眺めて通り過ぎてしまいます。ここでめげずにツバキ園に中に入っていくと、時に美しく咲いた椿の花に出会えるのです。

大部分に植えられているのは古くからある日本の園芸品種の椿たちです。入って右奥の方に胡蝶侘助や洋種ツバキ、グランサムツバキなどがありました。左手の手前側には、ベニバナチャやアッサムチャ、トガリバツバキやヒメサザンカなどの小さな花が数多く咲く種類が植えられています。その奥にはサザンカの木々があります。

ツバキ園に植栽された木には、だいたい名称板がつけられているので品種名が同定できて助かります。ただツバキが混み合って育ってしまっているのとクスの巨木のために日照不足になり、花付きが少な位ことが残念です。

その少ない花々でも人の心を掴ことはできるようで、通りすがりにツバキ園の花に気づいた女性たちが「あら椿」「綺麗ねえ」「こんな立派な花が咲くのね」などと話しながら歩いてゆきます。一歩中に入るともっと美しい花が見られますよ、と声を掛けたい衝動にいつも駆られます。

小石川植物園20210327

鬱蒼としたツバキ園に沿って歩き、クスノキの枝下から外れて空が開けた辺りまで来ると、小さな花がたくさん咲くチャなどのツバキ属が見られます。春はトガリバツバキやヒメサザンカが咲くき、最盛期には枝が小さな白い花でびっしりと覆われれて木が白く見えるほど。どちらも有香で、近づくとほのかなに甘く軽やかな香りが心地よい。秋に咲くベニバナチャは紅色をした茶の園芸品種で、ニュアンスのある紅色がなんとも魅力的です。蜜を求めて小さな蜂が次々と花を渡り歩くので、その邪魔をしないようにそっと眺めることにします。

この辺りもロープが貼られていないので園に入りやすくなっています。中に誘導するようにツバキに関する説明が設置されています。

 

小石川植物園の公式ページによると園芸品種を中心に約80種のツバキ属を所有していて、そのツバキの品種名、学名、開花期が一覧表で紹介されています。サイトのアドレスと、品種名のみ下記に羅列しておきます。

https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/koyomi/camellia.html

【小石川植物園ツバキ品種リスト】(公式ページによる)

※実際にここで見た品種は「○」、未確認の品種には「・」印をつけました。

リストにはないが品種名板を確認した品種には「●」をつけて追加しました。

○阿賀の里 ・明石潟 ○曙 ・天の川 ○荒獅子 ・淡路島 ・紅千鳥 ・紅唐子 ・ベン パーカー ・朝鮮椿 ・大城冠 ○ダッチェス オブ サザーランド ○エミリ ウィルソン ・覆輪一休 ・源氏唐子 ○ギガンテア ○御所車 ○玉牡丹 ○白雁 ・白乙女 ○初嵐 ・光源氏 ○柊葉椿 ○本所の月 ○岩根絞 ・角葉珍山 ・加茂本阿弥 ○寒陽袋 ・唐糸 ・黄覆輪弁天 ・菊更紗 ・菊冬至 ・菊月 ・君が代 ○金魚葉椿 ○胡蝶侘助 ・紅牡丹 ・紅麒麟 ○古金襴 ・光明 ・崑崙黒 ○孔雀椿 ○熊坂 ○黒椿 ・マソチアナ ルブラ ○松笠 ・眉間尺 ○峰の雪 ○三浦乙女 ・藻汐 ○ミセス チャールズ コップ ・ミセス ホワイトフィールド ○後瀬山 ○阿蘭陀紅(オランダ紅) ・乙女 ○盃葉椿 ・白拍子 ・昭和侘助 ○衆芳唐子 ・春曙光 ○宝合 ○玉垂 ・太郎冠者 ・月の都 ・雲竜椿 ○空蝉 ○雪見車 ・百合姫 ・百合椿 ・千代鶴 ○富士の峰 ○根岸紅 ○雪月花 ○雪山 ○歌枕 ・銀竜 ・近江衣 ・桜鏡 ・手向山

●菱唐糸 ●小紅葉 

・セッコウベニバナユチャ ・カメリア ドルピヘラ ○グランサムツバキ ○トガリバサザンカ ・ユキツバキ ・ヤクシマツバキ(リンゴツバキ) ○ヒメサザンカ ・トウツバキ ・ヤマトウツバキ ・ヤナギバサザンカ ○ベニバナチャ ○アッサムチャ ○タイワンサザンカ ・C. brevistyla

●ウスバヒメサザンカ ●タイワンヤマツバキ(ホウザンツバキ) ●トガリバツバキ

ツバキ園で見られたツバキ・サザンカ

3月

菱唐糸 小石川植物園20210327
菱唐糸 小石川植物園20210327

10月

ベニバナチャ 小石川植物園20211016
ベニバナチャ 小石川植物園20211016

11月

ツバキ園に面してそびえ立つイチョウの木は「精子発見のイチョウ」、毎年秋には木下を銀杏の実が埋め尽くします。このイチョウをサザンカとイヌツゲの生垣が囲み、生垣の中にイチョウと一緒にここにもツバキが植えられています。

白ヤブツバキの大木

ヤブツバキは赤色が基本ですが、稀に白いヤブツバキが咲く事があります。昔から珍しかったと見えて、『日本書紀』にも白い椿を天皇に献上した事が書かれています。白椿を瑞兆と捉えたのです。

その珍しい白いヤブツバキの大木が小石川植物園内にはあります。見やすいところに2本あって、1本はスズカケの木の辺りの北側、もう一本は正門近くのトイレの前。普段は赤色を見慣れているので、白色の椿を見ると新鮮な感じがします。

白ヤブツバキ 小石川植物園20171209
白ヤブツバキ 小石川植物園20171209

カリン林の近くのサザンカ

ツバキ園を見たらそのまま北側の道を進みどんどん奥へ行きます。するとチャの木の群生とサザンカに出会えます。チャノキは園内地図26番の五叉路ところに生えています。そこから右手、1本目と2本目の通路に囲まれた辺りがサザンカのエリアです。特にチャノキの横の通路(右から2本目の通路)をゆくと、秋冬には南に面した枝に濃桃色や紫を帯びた赤色のサザンカが見られます。

小石川植物園20211016

メタセコイア林の近くのタイワンサザンカたち

園の南側のメタセコイア林は私のお気に入りの一角なのだが、このメタセコイアとクルミ科の木々に混じって異色を放つのが、グランサムツバキ、クラプネリアーナ、タイワンサザンカの3本のツバキの仲間。通路から少し奥まったところに生えている上、通路の反対側はサザンカやツバキがあって花が咲けば人々の目はそちらに向けられることは確実。林の中でひっそり生息しているツバキたちに気がついたら目を向けてやって欲しいと思う。

園内各所に咲くツバキ・サザンカ

暖帯に位置する園の植生によるためか園内にはヤブツバキが自然に生えています。大概は園を取り巻く鬱蒼とした木立に混じっていて、中にはよく陽を浴びる場所にあって秋冬に見事な赤い花を咲かせている木もあります。

ヤブツバキ 小石川植物園20171209_1
ヤブツバキ 小石川植物園20171209_1
ヤブツバキ 小石川植物園20171112

一方で、とにかく植えた感があるツバキ属の木々も随所に見られます。メタセコイア林の近くのアジアのツバキもそうですが、極め付けが正門から坂を上がって左手の本館を含むエリアの暗い林の中のツバキ属の木々。他に行き場がなかったのだろうと思わざるを得ない感じです。それでも名称板をつけてもらっているのは大事な木だからでしょう。まだ花が咲いたところを見た事がないのですが、いつか見たいと心待ちにしています。

四季を通じて楽しめる憩いの場

小石川植物園は、椿以外の季節でも、季節ごとの植物を楽しめる良い場所です。春の桜と秋の紅葉は散歩にちょうど良い。大きなモッコクの木も素敵だし、シマサルスベリの白い花の咲き散る様は幻想的、スズカケノキの林は秋になると香ばしい香りがして心地よい。イチョウが葉を散らすと地面は金色に変わり、葉に隠されていた空が開けて明るい林が広がるのです。冬のカリン林は良い香りが満ちています。カリンの木々の下を歩いていると、時折ドサンと実が落ちる音が響いてびっくりします。近寄って落ちた実を拾い鼻を近づけて大きく息を吸って香りを楽しみます。面白いことにこの時期に園内地図をもらうとカリン林付近に「落下物注意!」と赤スタンプが押してあります。

いつ来ても、誰でも自然と触れ合って、何かを見つけて、豊かな気持ちになって帰れる、ここは都会のオアシスです。

<訪問日:2017年11月12日、2017年12月9日、2020年10月30日、2021年3月27日、2021年10月16日>

データベース

【名称】小石川植物園ツバキ園
【コレクション】ツバキの園芸品種を中心に約80品種、日本産種・外国産種
【花期】 10月〜5月上旬
【所在】〒112-0001 東京都文京区白山3丁目7番1号
【備考】
・営業時間:午前9時~午後4時30分(但し入園は午後4時まで)、入園料:大人500円
・定休日:月曜(月曜が祝日の場合はその翌日、月曜から連休の場合は最後の祝日の翌日が休園日)、年末年始(12月29日~1月3日)
・問合せ:03-3814-0138、E-mail:koishikawa_bg(at)ns.bg.s.u-tokyo.ac.jp
・東京大学大学院理学系研究科附属施設は東京都文京区に小石川植物園本園、栃木県日光市に日光分園がある。
【公式サイト】https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/

 

アクセス

  • 都営地下鉄三田線 白山駅下車 A1出口 徒歩約10分
  • 東京メトロ丸ノ内線 茗荷谷駅下車 出入口1 徒歩約15分
  • 茗荷谷駅から文京区コミュニティバスB-ぐる乗車、共同印刷下車徒歩約3分
  • 都営バス(上60)大塚駅~上野公園線 白山2丁目下車 徒歩約3分

参考文献

  • 最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,2010
  • 小石川植物園ツバキ園:https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/koyomi/camellia.html
  • 小石川植物園案内図(パンフレット)

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