【椿の名所】小石川植物園

黒椿 小石川植物園20210327

江戸時代には小石川療養所、明治に東京大学付属の植物園となった小石川植物園。日本最古の植物園だ。ここにはツバキ園が独立してあるほか、園内随所にツバキ、サザンカの園芸品種や原種が点在している。春には園芸品種のツバキの花、秋にはサザンカやチャの花を楽しめるのは勿論ながら、春の桜並木、秋の楓並木も素晴らしい。そして「ニュートンの林檎」「メンデルの葡萄」「精子発見のイチョウ」など歴史的に意義深い植物を見られるのも此処ならではの楽しみだ。

ツバキ園

入場してまずはツバキ園を目指す。ここには主に園芸品種のツバキが集められているのだが、小石川植物園が植物学の研究・教育施設であることを考えると、ツバキに特化して園芸品種を集めたツバキ園があることはやや不思議な気がする。また他の植物に比べてツバキ属の原種が園内各所で多めに見られることも同様に不思議だ。どのような経緯があったのだろう。

カエデ並木を通って公開温室の前を通り過ぎ、「精子発見のイチョウ」の手前で芝生の広場を背にして立つと、ツバキ園を囲むロープの切れ目から中に入る事ができる。

ツバキ園の大部分はクスノキの巨木が枝を広げる下に広がっているので鬱蒼として薄暗い。たいていの方は中に入らずに外側に面した枝に咲いた花を外側から眺めて通り過ぎてしまう。だがここでめげずに入っていくと、時に美しく咲いた椿の花に出会える。

入って右奥の方に胡蝶侘助や洋種ツバキ、グランサムツバキなどがある。その他の大部分に植えられているのは古くからある日本の園芸品種のツバキだ。左手は、手前側にベニバナチャやアッサムチャ、トガリバツバキやヒメサザンカなどの小さな花が数多く咲く木が植えられている。その奥にはサザンカの木々がある。ツバキ園に植栽された木には、だいたい名称板がつけられているので品種名が同定できて助かる。ただツバキが混み合って育ってしまっているのとクスの巨木のために日照不足になり、花付きが少なくて残念だ。

その少ない花々でも前を通る人の心を掴む。「あら椿」「綺麗ねえ」「こんな立派な花が咲くのね」などと話しながら前を通ってゆく人の姿をよく見かける。人通りに面して鮮やかな大振りの花を咲かせて行き交う人を魅了するのだ。一歩中に入るともっと美しい花が見られますよ、と教えて差し上げたい衝動にいつも駆られる。

小石川植物園20210327

鬱蒼としたツバキ園に沿って歩き、クスノキの枝下から外れて空が開けた辺りになると小さな花がたくさん咲くチャなどのツバキ属が植っている。春はトガリバツバキやヒメサザンカが咲く。最盛期は枝が小さな白い花でびっしりと覆われれて木が白く見えるほどだ。どちらも有香のツバキで、ほのかなに甘く軽やかな香りが心地よい。秋に咲くベニバナチャは紅色をした茶の園芸品種で、ニュアンスのある紅色がなんとも魅力的だ。蜜を求めて小さな蜂が次々と花を渡り歩くのでその邪魔をしないようにそっと眺めることにする。

ちょうどこの辺りもロープが貼られておらずツバキ園に入りやすい。中に誘導するようにツバキに関する説明が設置されている。

小石川植物園の公式ページによると園芸品種を中心に約80種のツバキ属を所有する。ツバキの品種名、学名、開花期が一覧表で紹介されている。品種名のみ下記に羅列しておく。

https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/koyomi/camellia.html

小石川植物園ツバキ品種リスト】(公式ページによる)

※私が実際にここで見た品種は○印をつけている。リストにはないが品種名板を確認した品種には●をつけて追加した

○阿賀の里 ・明石潟 ○曙 ・天の川 ○荒獅子 ・淡路島 ・紅千鳥 ・紅唐子 ・ベン パーカー ・朝鮮椿 ・大城冠 ○ダッチェス オブ サザーランド ○エミリ ウィルソン ・覆輪一休 ・源氏唐子 ○ギガンテア ○御所車 ○玉牡丹 ○白雁 ・白乙女 ○初嵐 ・光源氏 ○柊葉椿 ○本所の月 ○岩根絞 ・角葉珍山 ・加茂本阿弥 ○寒陽袋 ・唐糸 ・黄覆輪弁天 ・菊更紗 ・菊冬至 ・菊月 ・君が代 ○金魚葉椿 ○胡蝶侘助 ・紅牡丹 ・紅麒麟 ○古金襴 ・光明 ・崑崙黒 ○孔雀椿 ○熊坂 ○黒椿 ・マソチアナ ルブラ ○松笠 ・眉間尺 ○峰の雪 ○三浦乙女 ・藻汐 ○ミセス チャールズ コップ ・ミセス ホワイトフィールド ○後瀬山 ○阿蘭陀紅(オランダ紅) ・乙女 ○盃葉椿 ・白拍子 ・昭和侘助 ○衆芳唐子 ・春曙光 ○宝合 ○玉垂 ・太郎冠者 ・月の都 ・雲竜椿 ○空蝉 ○雪見車 ・百合姫 ・百合椿 ・千代鶴 ○富士の峰 ○根岸紅 ○雪月花 ○雪山 ○歌枕 ・銀竜 ・近江衣 ・桜鏡 ・手向山

●菱唐糸 ●小紅葉 

・セッコウベニバナユチャ ・カメリア ドルピヘラ ○グランサムツバキ ○トガリバサザンカ ・ユキツバキ ・ヤクシマツバキ(リンゴツバキ) ○ヒメサザンカ ・トウツバキ ・ヤマトウツバキ ・ヤナギバサザンカ ○ベニバナチャ ○アッサムチャ ○タイワンサザンカ ・C. brevistyla

●ウスバヒメサザンカ ●タイワンヤマツバキ(ホウザンツバキ) ●トガリバツバキ

春のツバキ園で出会ったツバキ・サザンカ

2021年3月27日

菱唐糸 小石川植物園20210327
菱唐糸 小石川植物園20210327

秋冬の園内で出会ったツバキ・サザンカ

<2021年10月16日>

ベニバナチャ 小石川植物園20211016
ベニバナチャ 小石川植物園20211016

<2017年11月12日>

ツバキ園に面してそびえ立つイチョウの木は「精子発見のイチョウ」、毎年秋には木下を銀杏の実が埋め尽くす。このイチョウをサザンカとイヌツゲの生垣が囲み、生垣の中にイチョウと一緒にここにもツバキが植えられている。

白ヤブツバキの大木

ヤブツバキは赤色が基本だが稀に白いヤブツバキが咲く事がある。昔から珍しかったと見えて、『日本書紀』にも白い椿を天皇に献上した事が書かれている。瑞兆と捉えたのだろう。

その珍しい白いヤブツバキの大木が小石川植物園内にはある。見やすいところで2本あって、1本はスズカケの木の辺りの北側、もう一本は正門近くのトイレの前。普段は赤色を見慣れているヤブツバキ、白色のヤブツバキを見ると何か清楚で静かな感じがする。

白ヤブツバキ 小石川植物園20171209
白ヤブツバキ 小石川植物園20171209

カリン林の近くのサザンカ

ツバキ園を見たらそのまま北側の道を進みどんどん奥へ行くと、チャの木とサザンカに出会える。園内地図26番の五叉路ところにチャの木が生えている。そこから右手から1本目と2本目の通路に囲まれた辺りがサザンカエリアだ。特にチャノキの横(右から2本目の通路)をゆくと、秋冬には南に面した枝に濃桃色や紫を帯びた赤色のサザンカが見られる。

小石川植物園20211016

メタセコイア林の近くのタイワンサザンカたち

園の南側のメタセコイア林は私のお気に入りの一角なのだが、このメタセコイアとクルミ科の木々に混じって異色を放つのが、グランサムツバキ、クラプネリアーナ、タイワンサザンカの3本のツバキの仲間。通路から少し奥まったところに生えている上、通路の反対側はサザンカやツバキがあって花が咲けば人々の目はそちらに向けられることは確実。林の中でひっそり生息しているツバキたちに気がついたら目を向けてやって欲しいと思う。

その他の園内のツバキ・サザンカ

暖帯に位置する園の植生によるためか園内にはヤブツバキが自然に生えている。大概は園を取り巻く鬱蒼とした木立に混じっているが、中にはよく陽を浴びる場所にあって、秋冬に見事な赤い花を咲かせている木もあって嬉しくなる。

ヤブツバキ 小石川植物園20171209_1
ヤブツバキ 小石川植物園20171209_1
ヤブツバキ 小石川植物園20171112

一方で明らかにとにかく植えた感があるツバキ属の木々も随所に見られる。メタセコイア林の近くのアジアのツバキもそうだが、極め付けが正門から坂を上がって左手の本館を含むエリアの暗い林の中のツバキ属の木々。他に行き場がなかったのだろうと思わざるを得ない取ってつけた感だ。それでも名称板をつけてもらっているのは大事な木だからだろう。まだ花が咲いたところを見た事がないが、いつか見たいと心待ちにしている。

四季を通じて楽しめる憩いの場

勿論、椿以外の季節でも季節ごとの植物を楽しめるここは良い場所だ。春の桜と秋の紅葉は散歩にちょうど良い。大きなモッコクの木も素敵だし、シマサルスベリの白い花の咲き散る様は幻想的だし、スズカケノキの林は秋になると香ばしい香りがして心地よい。イチョウが葉を散らすと地面は金色に変わり、葉に隠されていた空が開けて明るい林が広がる。冬にカリンの林も良い香りが満ちている。時折ドサンと実が落ちる音が響く。近寄って落ちた実を拾い鼻を近づけて香りを楽しむ。いつ来ても誰でも自然と触れ合って何かを見つけて、豊かな気持ちになって帰れる都会のオアシスだと思う。

<訪問日:2017年11月12日、2017年12月9日、2020年10月30日、2021年3月27日、2021年10月16日>

データベース

【名称】小石川植物園ツバキ園
【コレクション】ツバキの園芸品種を中心に約80品種、日本産種・外国産種
【花期】 10月〜5月上旬
【所在】〒112-0001 東京都文京区白山3丁目7番1号
【備考】
・営業時間:午前9時~午後4時30分(但し入園は午後4時まで)、入園料:大人500円
・定休日:月曜(月曜が祝日の場合はその翌日、月曜から連休の場合は最後の祝日の翌日が休園日)、年末年始(12月29日~1月3日)
・問合せ:03-3814-0138、E-mail:koishikawa_bg(at)ns.bg.s.u-tokyo.ac.jp
・東京大学大学院理学系研究科附属施設は東京都文京区に小石川植物園本園、栃木県日光市に日光分園がある。
【公式サイト】https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/

アクセス

  • 都営地下鉄三田線 白山駅下車 A1出口 徒歩約10分
  • 東京メトロ丸ノ内線 茗荷谷駅下車 出入口1 徒歩約15分
  • 茗荷谷駅から文京区コミュニティバスB-ぐる乗車、共同印刷下車徒歩約3分
  • 都営バス(上60)大塚駅~上野公園線 白山2丁目下車 徒歩約3分

参考文献

  • 最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,2010
  • 小石川植物園ツバキ園:https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/koyomi/camellia.html

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