柊野と書いて「ひらぎの」と読むという。賀茂川をのぼり、上賀茂神社を過ぎて、志久呂橋を渡ったたもとから緩やかにカーブする坂を登ってゆくと、奥村家の塀から大きく枝を伸ばすその椿が見えてきます。
塀の外からも大きさが察せられ、思わず期待に胸が膨らんで小走りになってしまう。五色に咲き分けた花はすでに盛りかと思いきや、近寄ると花より多い蕾が見えて驚きました。
門柱に立つと広げた枝と太い幹まで見えるが、まだ全容は見えない。おうちの方に声を掛けて拝見させて欲しいとお願いすると、「どうぞどうぞ」と快く招き入れてくださいました。そればかりかお忙しい様子なのに、大きく引き伸ばしたこの椿の写真を何枚も見せてくださって、いろいろな話を聞かせてくださいました。庭の番犬は私の姿を見てよく吠えていたが、家人が私を招くやピタリと止んで賢さをみせて静かになったので、ゆっくり拝見させていただきました。
まずその大きさに感嘆しました。
庭に堂々とそそり立つ古木は、五色八重散り椿としては最大という。推定樹齢400年。もとは一本だった木の株元を盛り土したために四本の株立に見えるそう。それでも各々の幹周りは、104cm、109cm、86cm、86cmと十分に大きい。盛り土の下に隠れた株元の太さはどれ程なのか想像がつきません。その四本の枝を四方に広げたおかげで、頭上には大きな樹冠が広がっています。
花は、白、赤、桃が入り混じり、多彩な花色をしている。八重にひらりと咲き開いた花の形も軽やかで、多彩な色合いとともに明るく華やかな雰囲気を醸し出している。五色椿は一つ一つの花の模様が違うので見ていると飽きることがない。美しい花を見上げつつ椿越しに木漏れ日を浴びて、幸せな春のひと時を味わっていると、あっという間に時間が経ってしまう。
訪問は3月25日で、洛内の寺院の椿は花盛りを過ぎたものもありましたが、この辺りは寒さが残るので、花の盛りは4月中旬から下旬になるということ。最もよく咲いていたのは道に面した日当たりの良い側の枝で、庭の奥側はまだまだこれからといった感じでした。
花盛りになれば枝いっぱいについた蕾が花開き、やがて花弁が離れてぱらぱら散ることでしょう。いまはまだそれほど散ってはいないけれど、盛りをすぎた頃に根元の土や苔の上、路上に五色の花弁が散る様は、きっと美しいに違いない。来年の盛りの時期にまた来ようと楽しみになりました。
おうちの方は根元の大きな石や苔が木には良くないのだと気にして、手入れも十分行き届かないのだと嘆いておられました。見事な椿の木が末長くこの地で春の楽しませてくれることを願ってやみません。
<訪問日:2017年3月25日晴天、2019年4月15日晴天>
データベース
【名称】柊野のチリツバキ
【大きさ・形状】樹高:約9m、幹周り:104cm、109cm、86cm、86cm、枝張り:9.5m
【樹齢】約400年
【花、葉】花形:八重五色散椿、花径:中輪、花色:紅色、白、桃色、白地縦絞、覆輪などの花を咲き分ける。
【花期】4月中旬〜下旬
【所在】京都市北区上賀茂北ノ原町(個人宅)
【備考】京都市天然記念物(1984年/S59)、区民の誇りの木(2001年/H13)
アクセス
JR京都駅から京都市営バス「西賀茂車庫前」(1・9・37・特37号系統)下車 賀茂川に沿って北へ徒歩約15分、京都バス「志久呂橋」下車すぐバス10分高畑町下車徒歩20分
参考文献
- 日本列島・花maps 花の旅「ツバキ」,桐野秋豊監修,北隆館,1996
- 京都府HP京都府レッドデータブック2015 http://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/eco/sd/sd026.html