<訪問:2017年5月7日 晴れ>
ユキツバキ系ツバキの観察会があると知り、かねてよりユキツバキの自生地を見たいと思っていましたので参加しました。場所は音波山(おとなみやま)、滋賀県と福井県の県境です。
登山経験はなかったのですが、企画された方々がとても親切に連絡や手配をしてくださったおかげで、不安もなく参加できました。当日は天候も良く同行の方々と楽しく過ごしながら、実りある観察会となりました。
ユキツバキ自生地の様子
雪に順応した性質を持つユキツバキ(Camellia rusticana Honda)の分布は日本海側の多雪な山地です。標高872.6mの音波山(おとなみやま)は南限地である椿峠に近い滋賀県と福井県の県境にあります。
今回の観察コースは、国道365号に面したベルグ余呉スキー場入口の駐車場付近(標高約500m)から関西電力の巡視路に入り、鉄塔を辿って尾根伝いを行ったのち、巡視路を離れて標高872.6mの頂上を目指します。ツバキの垂直分布によればユキツバキとユキバタツバキの自生地域になります。
登山口からすぐの急な登り道で、早速ユキバタツバキが見られました。見慣れたヤブツバキとは異なる特徴の花の姿に思わず気持ちが高まります。そのまま県境の稜線をめざして歩く道筋では、木々の合間に赤や桃色のユキバタツバキやユキツバキらしき花が見られました。やがて送電線の鉄塔が立ちササが生い茂る開けた場所に出て、鉄塔を離れて更に進むと、ブナ林が広がる場所に至りました。頃は5月、まだ若いブナの葉越しに陽射しが届く明るい林の中、その下生えにツバキが花を咲かせていました。
まず予想以上にたくさん花が咲いていることに驚きました。時期も良かったのでしょう。以前に観察会で来られた市氏も「今回は前回に比べ、開花している花が多かった。前回は5月14日で今回は7日。観察時期を1週間早めたのがよかったと考えられます」とおっしゃっています。
倒伏叢生する背の低いユキツバキは、人の目線からでも木の全体を見ることができるため、花が見やすく、多いと感じたのかもしれません。普段よく見るヤブツバキは自分の目線より高くにある花を見上げます。見渡してツバキの花を見る感覚は不思議なものでした。
視界に広がる淡緑色のブナ林、林床部を覆うユキツバキ(ユキバタツバキも?)の葉の濃緑とササの葉の色、その様々な緑の世界に灯る赤い花は、ひときわ鮮やかに美しく見えました。
ユキツバキとユキバタツバキ
ユキツバキの花を確認するにあたっては、椿研究家である桐野秋豊氏の『色分け花図鑑 椿』(小学館.2005)の写真を手本としました。これによると、ユキツバキの特徴は、花は平開咲き、雄蕊は短く花糸まで濃黄色で根元まで分離している「ユキ芯」であること、です。
また、フィールドで実物の花を観察する際に、どのようにユキツバキとユキバタツバキを見極めるかは大きな課題でしたが、同行の方から「ユキツバキやヤブツバキの性質のどれか一つでも欠けていればユキバタツバキ」と教わりました。つまりヤブツバキとユキツバキの中間型はすべてユキバタツバキとなるので、その表現形のバリエーションは無限になります。
多彩な花色や花形のユキツバキとユキバタツバキ
今回観察したことで最も印象に残ったのは、花色や花形の多彩さでした。
ユキツバキ自体多種多様な変異個体があり、「自生地では株ごとに花色、花形が異なる」と桐野先生も述べています。ユキバタツバキもまた多様な姿を持つため、現地での短い観察時間と帰宅後に写真を見ながらユキツバキかユキバタツバキかを判断するのは困難でした。そこで当日観察した花の花色と花形を以下にまとめ、写真を掲載するにとどめます。
・花色:朱紅色、濃桃色、紅色、薄桃色、柔らかな明桃色、鮮やかな桃色、暗紅色(花糸まで赤みを帯びる)、斑入り、など。
・花形:平開咲き、三枚の花弁が目立つ三角形、平開咲きで細めの芯、抱咲き風、など。
[wc_row]
[wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column]
[wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column]
[/wc_row]
[wc_row]
[wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column]
[wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column]
[/wc_row]
[wc_row]
[wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column]
[wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column]
[/wc_row]
[wc_row]
[wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column]
[wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column]
[/wc_row]
何はともあれ、初めて自生のユキツバキ見られたことは望外の幸せでした。次回はもう少し登山に慣れておき、もっと花の観察に集中できるようになりたいものです。
観察会記録
実施年月日:2017年5月7日(日)晴天
参加者:8名
行程:7:30京都市内集合。車に分乗し登山口であるベルグ余呉スキー場駐車場(国道365号沿い、栃ノ木峠手前。標高約500m)到着。10:30入山。途中昼食休憩をはさみ、13:35音波山頂上(標高872.6mm、標高差約400m)到着。小休止後下山開始、休息をはさみ16:00下山。往復約8㎞。
登山時間:約5時間30分(内、昼食と休憩は合計1時間以上含む)
<初出『カメリアン57』(コーベ・カメリア・ソサエティ,2017年)「音波山のツバキ探訪」を一部修正>