【椿の名所】霊鑑寺門跡の古木椿

【椿の名所】霊鑑寺門跡の古木椿

尼門跡寺院「谷の御所」あるいは「椿の寺」と呼ばれる霊鑑寺は、承応3年(1654)に後水尾天皇の皇女を開基として創建され歴代皇女が住職を務めました。後水尾天皇は椿の大愛好者でした。境内には創建当初からあったと伝わる椿が十数本もあります。

後水尾天皇遺愛と伝わる日光椿

かつてここには樹齢400年と言われた日光(じっこう)という椿(京都市天然記念物)がありました。残念ながら2015年に枯死して今はその姿は見られません。枯死した日光椿は後水尾天皇も愛でたと伝わる古木椿です。私は実物を見ることが叶わず、大変残念に思っている椿の一つです。

3メートルほど離れた場所に生えている日光椿は、元の椿と根がつながっていたたので、市の指定天然記念物はこの日光に引き継がれることになったそうです。

日光jikko 霊鑑寺2020032
日光jikko 霊鑑寺2020032
日光jikko 霊鑑寺2020032
日光jikko 霊鑑寺2020032
日光jikko 霊鑑寺2020032
日光jikko 霊鑑寺2020032

在りし日の日光について、「ジャパンカメリア」146号(1995年)では、「当寺第一の巨椿」とし、樹高8m、地上10cmの幹周110cm、地上40cmで二股に分かれている、とあります。また「根は地上に出て丘を下って、そこから数本の子株が生えている」とあるので、現在天然記念物の名を引き継いだ日光椿はそのうちの一つの子株の木なのでしょう。

日光があったのは門のすぐ近くだったので、通常一般公開されていなくても外から塀越しに眺めることができたという。それほどに大きな木だったということで、創建当時からあったと考えられ、樹齢350年と推察されていました。

今は見ることのできないこの椿を、京都の椿を数多くカメラに収められている写真家の水野克比古氏の写真によって私は知りました。実物を見ることはかないませんでしたが、銘椿と呼ぶにふさわしいその姿は写真でも圧巻です。

水野克比古「京椿」1991より 霊鑑寺日光

濃朱紅色の花弁と唐子の花姿が印象的な日光(じっこう)は、江戸時代頃には既にあった古典品種です。京都や関西では日光と呼ばれますが、他の地域では紅唐子(べにからこ)と呼ばれることが多く、中部地方では紅卜半(べにぼくはん)とも呼ばれます。

霊鑑寺散椿

霊鑑寺で参拝客を真っ先に迎えてくれるのは、門をくぐってすぐ左正面目に姿を表す梅の古木と散椿の古木です。開基の浄法身宮遺愛と伝わります。日光の巨椿があった頃は、右手に日光、左手に梅と散椿があったことになるので、花の盛りに門をくぐるとさぞや華やかな光景であったことでしょう。

散椿は樹下に紅色の花弁を散り敷いてたいそう華やかです。

霊鑑寺散椿2020032
霊鑑寺散椿2020032
霊鑑寺散椿2020032
霊鑑寺散椿2020032

花は桃色に近い紅色、八重咲きの散性、中輪から大輪です。雄しべは筒しべになっています。五色散椿の紅花枝変わりです。

霊鑑寺散椿2020032
霊鑑寺散椿2020032
霊鑑寺散椿 霊鑑寺20170405
霊鑑寺散椿 霊鑑寺20170405

散椿の古木を左手に見ながら進むと、椿の花を浮かべた水鉢が置かれていて、思わず足が止まります。

霊鑑寺2020032
霊鑑寺2020032
霊鑑寺2020032

その先の玄関は、竹に色とりどり様々な品種の椿の花を活けた花あしらいが飾られています。

霊鑑寺2020032
霊鑑寺2020032

他にも霊鑑寺の境内にはそこかしこに椿の花が飾られていて、椿の花を楽しむ心意気というか、目を美しいもので楽しませてくれる心遣いが感じられます。単に品種がたくさんあるだけではない、さすが元祖椿愛好家の一人である後水尾天皇ゆかりの場所と思います。

境内の椿の数々

通常非公開の霊鑑寺ですが、春の特別公開時はちょうど椿の開花時期です。境内には日光や散椿以外にも様々な椿が植えられていて、とりどりの椿を楽しむことができます。

椿の寺と言われる霊鑑時の境内には多くの品種が植えられています。最近植えられたと思しき木もありますが、所々にある古木の椿が存在感をかもし出していて、他の建物や苔や草花と一体となり、美しい椿の庭を作り上げています。

京椿の銘椿、珍しい品種として、白牡丹、奴、散椿(霊鑑寺散椿)、舞鶴(霊鑑寺舞鶴)、菱唐糸、小桜、緋縮緬、などなどがあります。霊鑑寺の椿が原木とされる品種として、奴、散椿(霊鑑寺散椿)、舞鶴(霊鑑寺舞鶴)などがあります。

菱唐糸 霊鑑寺2020032
菱唐糸 霊鑑寺2020032
菱唐糸 霊鑑寺2020032
菱唐糸 霊鑑寺2020032
霊鑑寺2020032
霊鑑寺2020032
霊鑑寺2020032
唐獅子 霊鑑寺20170405 

霊鑑寺散椿 中庭 2020032

本堂の縁側から見られる月光(がっこう)。江戸時代には既にあった古典品種です。京都ををはじめ関西では月光と呼びますが他の地域では卜半(ぼくはん)と呼ばれることが多い椿です。

月光 霊鑑寺2020032
月光 霊鑑寺2020032
月光 霊鑑寺2020032
月光 霊鑑寺2020032

「月の光」と書いて「がっこう」と読む「月光」と、「日の光」と書いて「じっこう」と読む「日光」は、いずれも一重、唐子咲き、小輪の古典品種。花芯の唐子が日光は赤、月光は白で、まるで対になっているかのよう。

日光と月光の呼び名が、日光菩薩と月光菩薩をなぞらえているとは容易に推察できます。寺院の多い京都ならではの呼び名に思えます。

月光椿と並んで縁側から見られる椿は五色散椿。京都の旧家や寺院に古木の多い品種です。

五色散椿 霊鑑寺20200324
五色散椿 霊鑑寺20200324
五色散椿 霊鑑寺20200324
五色散椿 霊鑑寺20200324
散椿 霊鑑寺20170405

香り椿の数々

最近の品種で目を引くのが香り椿の数々です。まず門を入ると山門までの両側が香り椿の生垣です。

庭の所々にも植えられています。桃色の小さな花が細い枝にたくさん咲く香り椿は愛らしく華やかです。

香妃 霊鑑寺2020032

そして地面に落ちた花も鈴のような可愛らしさで、目を奪われます。

ロゼフローラ 霊鑑寺20200324

お寺の方でしょうか。落ちた花がハート形に並べられていました。可愛らしいです。

ロゼフローラ 霊鑑寺20200324

<訪問日:2017年4月5日曇天,2020年3月24日晴天>

データベース

【名称】霊鑑寺門跡
【コレクション】  日光、八重散椿、舞鶴、白玉、曙、花笠、奴、獅子、縮緬、小桜、白牡丹、八重侘助など銘木多数。100種類以上。
【所在】〒606-8422 京都府京都市左京区鹿ケ谷御所ノ段町12
【備考】
・公開:通常非公開。春と秋の特別公開期間中のみ10:00~16:00
・問合せ先:075-771-4040

アクセス

  • 京都駅から、市バス5系統「真如堂前」下車徒歩約5分、または市バス100系統「宮ノ前町」下車徒歩約5分

参考・引用文献

  • 霊鑑寺門跡パンフレット
  • 最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,2010
  • 「ジャパンカメリア」146号,日本ツバキ協会,1995.2
  • 現代椿集,日本ツバキ協会,講談社,1972
  • 水野克比古写真 京椿,写真:水野克比古、文:渡邊武,京都書院,1991

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