玄界灘に向こうに壱岐と対馬を望む佐賀県の松浦半島は、太閤豊臣秀吉が朝鮮出兵に際して名護屋城を築き布陣した場所。その時代からあったと地元に伝わる古木椿が1984年に発電所建設に伴い玄海エネルギーパーク敷地内に移植されて太閤椿と呼ばれるようになりました。古くから畑を守る防風林として植えられてきたヤブツバキ群は地域のランドマークであり、椿園も整備されて、ここはツバキの名所になりました。
2024年2月に職員で日本ツバキ協会玄海支部のY氏と玄海支部支部長のY氏のご案内で見学しました。
太閤椿
海に面した土地や島は、その強風から家や畑を守るためにツバキを植えることがよくあります。強い潮風に耐え、岩だらけの土地に強靭な根を張り、枝葉を広げて生い茂るツバキは、人々の暮らしを守る頑強な防壁です。
玄海エネルギーパーク敷地内に移植された古木椿6本もそうした大樹で、土地の人から長年の恩を想ってか「太閤さんの頃よりある古木なので大切に保存して欲しい」と木を託されたのだと「ジャパンカメリア」の樋口氏の記事に書いてありました。中でも最大の古木はやがて太閤椿と呼ばれるようになったとのことです。秀吉の朝鮮出兵(1592-98)の頃からというと少なくとも樹齢400年以上、資料には約450年以上とあります。これらの木々があった元の場所の並びにはさらに大きな樹齢600年はあろうかと思われる大椿があったそうです。
6本の古木椿は200mほど離れた場所から現在の場所にまとめて植栽されました。いずれも地際から何本にも分かれた幹がグネグネと曲がりながら広がる樹形で、背が低く枝葉が茂っています。遠くから見るとまるで盆栽のようです。
※6本全体とそれぞれの樹
太閤椿は太い幹が地際から3本から4本に分かれて地面を這うように横に広がりながら伸びています。それぞれの幹や枝が合着している部分もあり、複雑で迫力のある樹形です。前出の2002年の樋口氏の記事には地際の幹回りの詳細なスケッチと幹周が記載されています。今見る形とほぼ同じです。写真と見比べると幹はかなり傷んで色も白茶けて枝葉も減っていますが、幾輪かの真っ赤な花を咲かせていて健在です。
※太閤椿の幹 ※花
玄海淡雪
太閤椿の後方の温室の奥は玄界灘を望む中庭になっていて、緩やかな石段に椿と草花が植えられています。ここに玄海淡雪(げんかいあわゆき)の木があります。
玄海淡雪は玄界灘沿岸で発見された野生のヤブツバキより選抜した品種です。蕾から咲き初めは淡い桃色を帯び、咲き進むと白くなる一重の極小輪で、抱咲きの形とほわりとした淡い桃色の組み合わせが何とも愛らしい姿です。寒さ暑さに強く1月頃から開花するそうで、2月後半に訪問した時には樹下に花を落としつつ枝にも蕾と白い花を咲かせていました。当地で生まれた玄海淡雪は、日本ツバキ協会玄海支部のシンボルでもあります。
白石記念椿園
玄海エネルギーパークの向かい側の小高い敷地が発電所2代目所長の故白石晶一氏の基金を元に作られた白石記念椿園です。2万平方メートルの敷地松などの高木の林の樹下に園芸品種約100種800本が植栽されています。
訪問時にはサルウインツバキとヒメサザンカの交雑種で香りのある早咲きの軟風(なんぷう)が盛りを迎えて庭を賑わしていました。
また美しく咲いた都鳥の木に出会えたのは重畳でした。白くひらりと優美に花弁を広げた都鳥は見ていて飽きない花です。
他にも肥後椿や久留米原産の桃色に底白の八重の大輪である桃太郎、紅紫色をした八重咲きの博多紫(はかたむらさき)、古典的な名花である正義(まさよし)など見ると、九州らしさを感じます。
見ることのできたツバキ
<2024/2/26>
小高い敷地に広がる椿園は松などの高木の下に椿が植栽されていますが、陽射しも届いて思いの外明るく、軽い散歩にうってつけです。
<訪問日:2024年2月26日 晴天>
データベース
【名称】玄海エネルギーパーク白石記念椿園
【コレクション】約100種、800本
【花期】見頃11月~3月
【所在】〒847-1441 佐賀県東松浦郡玄海町今村4112−1
【備考】
・営業時間:9:00~17:00、入場無料
・定休日:毎月第3月曜日(但し第3月曜日が祝日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日~1月2日)
・問合せ:T E L:0955-52-6409
【公式サイト】
玄海エネルギーパーク:https://www.kyuden.co.jp/genkai_event_camellia
【名称】太閤椿(たいこうつばき)
【品種】ヤブツバキ
【大きさ・形状】樹高:約4.5m、幹周り:2.4m(145cm、123cm、73cm)、樹冠の広がり:約4.5m (2000年頃の調査時と思われる)
【樹齢】約450年
【花】紅色、一重
【花期】
【所在】〒847-1441 佐賀県東松浦郡玄海町今村4112−1
【備考】
・定休日:毎月第3月曜日(但し第3月曜日が祝日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日~1月2日)
・問合せ:T E L:0955-52-6409
【公式サイト】
玄海エネルギーパーク:https://www.kyuden.co.jp/genkai_event_camellia
アクセス
・自動車:福岡前原道路「前原東IC」から車で約1時間10分
・J R唐津駅から徒歩7分、大手口(唐津バスセンター2番乗り場)から大島・小加倉線・32F 唐津フェリーターミナル・名護屋浜行き乗車、玄海原子力発電所下車(約60分)、目の前
参考文献
・樋口勝彦,椿のある風景第17回 玄海原子力発電所の“太閤椿”,ジャパンカメリア67号,日本ツバキ協会,2002年2月20日発行
・九州電力 椿園・あわつき:https://www.kyuden.co.jp/genkai_event_camellia
・玄海エネルギーパークの資料
・椿園の品種名札
・最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,2010