【椿の名所】武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園ツバキ園

京都市バスを修学院で降り、比叡山の裾野に広がる人家を抜けて山へ向かって歩くと、20分ほどで武田薬品工業・京都薬用植物園に着きます。ここにはツバキ園があり、505品種を保有しています。そのうち136品種は同園で命名した品種で日本植物園協会のナショナルコレクションの第1号認定品種です。また京都・奈良の寺社の銘椿27種の予備木を保存・育成するという素晴らしい試みがなされています。

薬用植物園とツバキ園のガイドツアー

比叡山の麓にある武田薬品 京都薬用植物園は、1933年に武田薬品工業の薬用植物の研究所として誕生し、現在は薬用植物の収集・保存・調査・研究・教育・普及の施設となっています。山地を含む94,000平方メートルの敷地では生薬の素となる薬用植物を中心に約3,000種の植物を保有・栽培していますが、興味深いのは一角にツバキ園があることです。

500余品種のツバキを植栽するツバキ園では、例年開花時期に合わせて見学会が催されます。2025年3月に念願のガイドツアーに参加しました。

ガイドツアーは1時間ほどで、起伏に富む地形の園内を社員の方の解説を聞きながら巡りました。ツバキ園の入り口から斜面に植栽された椿を見つつ緩やかな下り道を進みます。途中に日本に自生するヤブツバキやユキツバキが咲いており、その見分け方や分布などの解説がありました。やがて少し開けた低地のツバキの植栽地域へ至ります。そこから石垣を組んで造成した斜面に植栽された古木椿を見ながらつづら折りの坂道を歩き、登り切るとツバキ園の頂上に到着です。

武田薬品京都薬用植物園ツバキ園頂上20250331

「標高162.9m」の標識と6代目武田長兵衞像が立つ小高い場所からは、萌えはじめた木の芽色の山並みが望め、見晴らしは格別です。白い桜の花、紅い椿の花などが彩りを添えていました。ツバキは品種によって咲く時期に差がありますが、当日は宰府、景清などはよく咲いており、群獅子や早咲き日光は咲き終えた花が多く地面に落ちているもののまだ木で咲いている花もある様子、早く咲く太郎冠者や数寄屋も花が残っていました。

 

ツバキ園の成り立ち

薬用植物園の中にツバキ園ができたきっかけは、6代目武田長兵衞氏がハワイの知人からユキツバキの入手を依頼されたことだそうです。これをきっかけに北陸地方を中心にユキツバキの分布を調査したところ貴重な株が消えつつあることが判明、京都薬用植物園では各地のツバキについて保全活動を開始します。1956年から1960年にかけて山形県から沖縄県の17都道府県において、各地に伝わる古い品種を中心に集められたツバキは、園南西部の山地の麓から山頂にわたって造成されたツバキ園に植栽されました。2025年現在は505品種のツバキが植栽されています。

園内のツバキは大きく分けると、一般の園芸品種(325品種)、京都薬用植物園で命名した品種(136品種)、洋種ツバキ(44品種)で、このうち一般の園芸品種と京都薬用植物園で命名した品種は4つに分類され、色分けしたラベルを付けられています。

・黄:園で同定した園芸品種 142品種

・緑:京都・奈良の寺社の銘椿 27品種

・白:一般品種 156品種

・桃:ナショナルコレクション認定品種 136品種

中でも注目すべきは、京都・奈良の寺社の銘椿とナショナルコレクション認定品種でしょう。

 

京都・奈良の寺社の銘椿

京都・奈良は歴史的にも地理的にも、ツバキの園芸品種が数多に誕生するのに相応しい日本随一の土地です。またそのツバキを長く伝える場所として神社仏閣ほど適した場所はないでしょう。その結果、数々の銘椿が今に伝えられていますが、枯死の危険は常にあります。

同園では京都・奈良の神社仏閣にある銘椿の予備苗を預かって枯死に備えて栽培管理していて、園内の緑ラベルを付けられた27品種はそうしたツバキです。この活動は京都・奈良に根差した植物園らしい価値ある活動だと思います。

案内板によると銘椿を預かる寺社は京都7ヶ所、奈良3ヶ所の合計10ヶ所。品種数は27品種で、うち2種類はバックヤードで保存されています。

27品種は下記のとおりです。(斜め文字:当日見ていないもの

京都:7箇所

【霊鑑寺門跡】(れいかんじ)10種:白牡丹(一般名:不老門)、小桜、縮緬、舞鶴椿、蝦夷錦、衣笠(一般名:白菊)、紅唐子、散椿、八重佗助、白玉

【宝鏡寺門跡】(ほうきょうじ)4種:玉兎、村娘、月光(卜伴)、九重

宝鏡寺の村娘は2017年に見に行きました。撮影禁止でしたので、今回は撮影できて嬉しかったです。(【椿の名所】宝鏡寺の村娘へ→)

 

【曼殊院門跡】(まんしゅいん)1種:五色散椿

【法然院】(ほうねんいん)3種:貴椿(あてつばき)、散り椿、花笠椿

貴椿(あてつばき)_武田薬品京都薬用植物園ツバキ園20250331

【鹿苑寺】(ろくおんじ)1種:胡蝶侘助

【仁和寺】(にんなじ)1種:尊寿院

【御香宮神社】(ごこうのみやじんじゃ)1種:おそらく椿

奈良:3箇所

【東大寺】(とうだいじ) 2種:糊こぼし(良弁椿)、紅流し

【白毫寺】(びゃくごうじ)1種:七福神(五色椿)

【伝香寺】(でんこうじ)1種:武士椿(もののふつばき)

京都の寺社には見学できないところ、撮影禁止のところがあるので、そうした寺院のツバキを見たり撮影できるのは大変嬉しいことです。もちろん園芸品種として販売されているものもありますが、原木から直接採られた苗が育った木に咲く花を見るのは、やはり感慨もひとしおです。

 

お里帰りした「開山堂紅流し」

見学会の少し前に東大寺開山堂を訪問する機会を得て、かの「糊こぼし」原木とともに、「開山堂紅流し」の花も見ることができました。白い八重の花弁に細かな紅色の絞りが控えめに混じる割りしべの花です。

東大寺 開山堂紅流し20250319

現在、開山堂にある「開山堂紅流し」は、まさに武田薬品 京都薬用植物園が1958 年から育成し、開山堂の紅流しが枯死したことによって、2010年に52年ぶりに里帰りした木でした。

ガイドの方の説明を聞きながら数日前に見たばかりの花を思い出していました。そして植物もまた文化財であること、過去から未来に引き継ぐには、その価値を認識し保全しようと考える守り手の存在と不断の努力が必要なのだと改めて思いました。開山堂で見た花は、関わった人々の思いと行いの結実だったのです。園から開山堂に紅流しが里帰りして、その後はどうなっているのか気になって尋ねると、新たに幼木を育成中です、とのことでした。未来への橋渡しはこれからも続くようです。

 

ナショナルコレクションのツバキ群

ナショナルコレクションは、野生種、栽培種に関わらず、日本で栽培される文化財、遺伝子資源として貴重な植物を守り後世に伝えてゆくことを目的に、(公社)日本植物公園協会が行う植物コレクションの認定、保全の制度によって認定されたコレクションです。「武田薬品京都薬用植物園命名ツバキ品種群」はその第一号として2018年に認定されました。

ナショナルコレクションは、野生種、栽培種に関わらず、日本で栽培される文化財、遺伝子資源として貴重な植物を守り後世に伝えてゆくことを目的に、(公社)日本植物園協会が行う植物コレクションの認定、保全の制度です。「武田薬品京都薬用植物園命名ツバキ品種群」はその第一号として2018年に認定されました。

これらの認定品種は、1956年から1960年にかけて17府県において収集された個体のうち、津山尚理学博士によって155品種が既存品種と異なる形質を持つ新品種であるとされました。各品種の詳細は津山尚編著の『日本の椿』(1969)にまとめられています。

このうち同園で命名された136品種は、ナショナルコレクションであると同時に基準木としても認定されています。

 

文化の保全と継承の活動

2024年3月4日付の毎日新聞で、同園で剪定したツバキの枝葉を燃やして作った椿灰を、紙漉きや染色に使うため美術工芸品の文化財修復に携わる技術者へ提供したという記事がありました。椿灰は和紙製造時の煮熟(しゃじゅく)や紫根染の媒染に使用されるそうです。文化財の修復は伝統的技術や素材を用いるので、まずは昔ながらの素材を手に入れなくてはなりません。文化は自然の恵みに支えられているのです。

この記事は武田薬品工業 京都薬用植物園のツバキたちが日本の文化の保全に一役買っていることを知った楽しい発見でした。そして薬用植物園にツバキ園があるという不思議さが、医薬も伝統工芸も椿の園芸品種も、日本の風土と時間と歴史の中で育まれた文化という意味で同じものだという気づきに変わりました。

絶滅危惧種植物の保全も、伝統工芸品の修復も、失われつつあったツバキの園芸品種の保全も、長年続く文化が失われることへの危機感と未来へ引き継ごうとする意思が生み出した行いです。千数百年の歴史をもつ古都の植物園にふさわしい文化の保全と継承の営みがこれからも続くことを切に望みます。

最後に本稿の作成にあたり武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園のご協力をいただきましたことに深く感謝いたします。

 

展示

出発までも待ち時間は研修棟の展示を見て過ごせます。

1781年の創業以来の武田薬品工業の社史とともに、本草学の本、解体新書の写しなどが展示されています。タケダの歴史というパネルには初代長兵衛と4代、5代、6代目長兵衛を名乗った方々の写真がありました。6代目がツバキ園を作った方です。

 

見ることのできたツバキ・サザンカ

3月

<2025/3/31>

 

 

<訪問日:2025年3月31日(月) 晴天>

この記事は「伊予つばき」第44号 (2025、伊予つばき協会発行)収録に加筆修正しました。

 

データベース

【名称】武田薬品工業株式会社京都薬用植物園ツバキ園

【コレクション】 約200種

【花期】3月中旬〜4月が見頃

【所在】〒606-8134 京都市左京区一乗寺竹ノ内町11番地

【備考】

・営業時間:事前予約による特別見学会のみ入園可能。

・問合せ:公式サイトから申し込み、メール:Takeda_Garden@takeda.co.jp 、TEL 075-781-6111

【公式サイト】https://www.takeda.co.jp/kyoto/

 

アクセス

・京都駅から烏丸線で20分、国際会館駅下車、市バス5か市バス五条通5に乗り約20分、一乗寺清水か修学院駅下車、徒歩20分。

・京都駅から市バス5か市バス五条通5(岡崎公園 平安神宮・銀閣寺・岩倉行き)の乗り約50分、一乗寺清水か修学院で下車、徒歩20分

武田薬品京都薬用植物園入り口

 

参考文献

・武田薬品工業株式会社京都薬用植物園:https://www.takeda.co.jp/kyoto/

・武田薬品工業株式会社京都薬用植物園パンフレット

・椿園見学会資料(2025/3/31)

・園内の案内板ほか

・公益社団法人日本植物園協会公式サイト_ナショナルコレクション認証番号001武田薬品工業京都薬用植物園が命名したツバキの品種:http://www.syokubutsuen-kyokai.jp/nc/collection/detail.php?id=001

・世界に尽くせ、タケダ_ルーツ探訪 Vol.01【探訪篇】時代を超えて社会に尽くす、京都薬用植物園 種を守り、地域の歴史と文化を守る:https://www.240.takeda.com/exploringroots/01/

・日本の椿,津山尚編著,(財)武田科学振興財団,1969

 

 

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