東京農工大学の府中キャンパスは世界有数のサザンカコレクションを有する場所です。これらは箱田直紀元教授が40年以上にわたって収集した国内外のサザンカで、今も約200品種が保存・管理されています。 大きいものでは数メートルにも成長したサザンカは農工大のシンボル的存在として、花の盛りには校内を散歩道にしている近所の方々の憩いとなっているようです。
東京農工大学の沿革とサザンカの植栽
創立1874年(明治7年)の東京農工大学は、時代の要望に合わせて生じたさまざまな教育機関を統合して1949年に誕生します。その農学部の起源は、1878年に開校した農学に関する日本初の総合教育・研究機関だった駒場農学校。日本の近代農業の発展に寄与した教育機関の実践の場は、今も産学連携の研究の場として高く評価されています。
実科の場である東京農工大学のキャンパスは広く、当然畑もあり、サザンカは農道や校内道路に沿って路地に植えられています。場所は農学部のFSセンターFM府中(旧附属農場)および2号館と6号館の周辺です。(地図参照)
北道の畑に沿った場所(A1、A2、A3、B1、B2)と、その奥側の中央農道南1、2を中心に散策しました。
北道の端には案内板があります。すでに読みにくい状態ですが、この内容は、ネットで「東京農工大学のサザンカ」と検索するとより詳しい資料をみえることができます。(http://www.sato-tsubaki.co.jp/source/C.sasanqua.pdf)
日本固有の植物であるサザンカは園芸植物としての歴史も古く、室町時代中期以降に観賞用花木として栽培されるようになり、江戸時代に入ってから変化に富んだ様々な花容の園芸品種に発展してきました。品種数はおよそ300種を数えるといいます。
校内のサザンカ園芸品種のコレクションは約200種とのことで、これらはいずれも箱田元教授が在学中に研究資料として集めたサザンカです。園芸サザンカの発展初期頃の品種と思われるものや、そこから発展してきたであろう品種コレクションは、サザンカの園芸文化史を体現する生きた証拠とも言えるでしょう。これだけの規模と内容は他で見ることはできないのではないでしょうか。
東京農工大学のサザンカコレクションは、園芸文化の歴史、文化論 など学術研究の素材としてのみならず、栽培植物の品種改良、遺伝学的研究、またバイオテクノロジーへの応用における重要な遺伝的資源として価値が認識されているようです。大学公式サイトを見ると特にバイオ分野に積極的なようなので、資源活用の成果をいつか見られるかもしれません。それはいつのことか、どのような形でかは素人の私にはわかりませんが、創業以来、途切れることなく続く実践研究の場ならではのものであって欲しいと思います。そして400年近くも保存されてきたこれらの貴重のサザンカの遺伝子ストックが次世代に引き継がれることを願います。
サザンカ見学会
2022年11月19日(土)に日本ツバキ協会主催で行われた東京農工大学サザンカ見学会に参加しました。ガイドはもちろん元教授で、日本ツバキ協会の箱田直紀会長。
正門に集合、農学部本館・科学博物館分館に向かって真っ直ぐに伸びる道を進むと、両側には昭和10年頃に植えられたという欅並木が黄葉しています。所々に演習林の名残だという杉が少し見られますが、多くは地下水の汲み上げ過ぎにより枯れてしまったということです。欅並木の終わりには駒場農学校設立に貢献した大久保利通の碑が立っています。
農学部本館の手前で左手に曲がり、校内の古い建物群や雑木林を抜けてサザンカの植栽地域を目指します。雑木林にはカツラの木が多くあって、ちょうど黄葉したカツラの木が香ばしい香りを放っており、空から降り注ぐ良い香りに包まれながらさらに進みます。
やがて建物の並びに花盛りのサザンカが見えてきました。近づく足も自然と早まります。金岡椿樹園作出の金岡乙女、その奥にベティパトリシア。いずれも明るい桃色の花で、私たちを陽気に出迎えてくれました。
「サザンカは表で咲く、椿は裏で咲く、と言ってね」と箱田先生が教えてくださいます。
椿が好きだというとよく尋ねられるのがツバキとサザンカの区別の仕方です。花が丸ごと落ちるのが椿で花弁が散るのが山茶花、などと答えるのですが、このように選定されずに自然に咲いている場合だと木全体を見ることができるので、「サザンカは表で咲く、椿は裏で咲く」という特徴はとてもわかりやすいと思いました。既に花盛りと思われるのに、まだ蕾もたくさん付いています。サザンカはツバキより花付きが良い事も、わかりやすい特徴です。
「サザンカは寒くなると咲く、ツバキは寒さが遠のくと咲く」
なるほど、確かにそうです。箱田会長のお話は分かりやすい。
ツバキ属は東南アジアに広く分布する植物なので暖かい東南アジア地域であれば冬に咲く花です。しかし日本はツバキ属の分布域としては北限。春になり温度が上がってから咲くのが賢い生存方法です。一方、寒さを感じてから咲くサザンカは、同じツバキ属でも日本国内の暖かい場所を好んで分布します。北限は山口県の萩市、四国西南部と九州から沖縄 にかけて自生するのです。開花時期が分かれるサザンカとツバキは、それぞれに合った場所で分布域を広げてきました。
箱田先生の研究のために集められたサザンカ。数十年を超えて見上げるほどに大きく育った木は、立派な姿をして多くの花を咲かせていました。
品種コレクション
園芸品種のサザンカは大きく4つのグループに分かれます。(※分類名称は「新撰サザンカ名鑑」による)
1.サザンカ系品種群
2.シシガシラ系(カンツバキ系)品種群
3.ハルサザンカ系品種群
4.ユチャ系(タゴトノツキ系)品種群
東京農工大学のサザンカコレクションは展示事業が開始された2003年に発行された小冊子「東京農工大学のサザンカ」に320品種があることがよって紹介されています。(※分類名称と品種名は「東京農工大学のサザンカ」による)それぞれの品種群と冊子に掲載せれている品種名を以下に紹介します。
第一群 :サザンカ品種群(NO.1~181)
東紅、稲妻、栄久絞、大空、御美衣、君の万歳、見驚、三光錦、紫雲台、七福神、東雲、雪月花、雪山、昼夜錦、剱の舞、鳴海潟、初鏡、春雨錦、肥後入日の海、有希
第二群:カンツバキ品種群(NO.182~260)
勘次郎、緋乙女、乙女サザンカ、昭和の栄、富士の峰、皇玉、朝倉、伊豆立寒、艶姿、重扇、吉良白寒椿、雲の峰、久留米緋の司、敷島、清水赤獅子、白雪姫、新乙女、夕陽、千載、稚子桜、日の出富士、不二の雪、美濃牡丹、武蔵野、ベティパトリシア、シャンソネット
第三群:ハルサザンカ品 種群(NO.261~318)
旭、梅ヶ香、梅の風、笑顔、凱旋、唐衣、観音寺、京錦、銀竜、古金襴、小鼓、佐保姫、蜀紅錦、宝塚、伊達錦、天竜紅、星飛竜、倭姫、竜光、六歌仙
第四群:タゴトノツキ品種群(NO319~320)
田毎の月
「田毎の月」は中国原産の油茶の系統とされますが、園芸的にはサザンカの一種とみなされてきた品種です。
見ることのできたサザンカ
11月
<2022年11月19日>
<訪問日:2022年11月19日(土) 晴天>
データベース
【名称】東京農工大学のサザンカ
【コレクション】 約200種
【花期】 11月~1月
【所在】〒183-8538 東京都府中市晴見町3-8-1
【備考】通常一般に公開された施設ではありません。
・問合せ:総合案内(総務課総務係)042-367-5504
【公式サイト】https://www.tuat.ac.jp/
アクセス
- JR中央線「国分寺駅」下車、南口2番乗場から「府中駅行バス(明星学苑経由) 」約10分「晴見町」バス停下車
- 京王線「府中駅」下車、北口バスターミナル3番乗場から「国分寺駅南口行バス(明星学苑経由)」約7分「晴見町」バス停下車
- JR武蔵野線「北府中駅」下車、徒歩約12分
参考資料
- 新撰サザンカ図鑑,箱田直紀,日本ツバキ協会,2021
- 東京農工大学のサザンカ, 監修:東京農工大学農学部元教授 箱田 直紀、編集:東京農工大学農学部博物館設置準備委員会, 東京農工大学農学部 ,2003.3.31,http://www.sato-tsubaki.co.jp/source/C.sasanqua.pdf
- 最新日本のツバキ図鑑,日本ツバキ協会編,誠文堂新光社,2010
- 東京農工大学公式サイト:https://www.tuat.ac.jp/