<訪問:2018年3月3日、4日晴れ>
毎年、椿の花が咲く頃になると、日本のどこかの自治体で「全国椿サミット」が行われます。2018年の全国椿サミットは長崎県新上五島町において、3月3日(土)~4日(日)に行われました。新上五島町はヤブツバキが680万本も自生しています(新上五島町発表)
新上五島町と椿
全国椿サミットは、椿を自治体の花木にする都道府県や市町村において、椿の魅力を再確認して椿による地元振興のために一年に一度行われる集会です。開催地の住民と全国から椿の愛好家や自治体の関係者などが大勢集います。
今年の開催地である新上五島町(しんかみごとうちょう)は、長崎県の西に位置する五島列島の北側の約半分を占める町で、中通島と若松島を中心とした7つの有人島と60の無人島で形成されます。2004年(H16)に若松町、上五島町、新魚目町、有川町、奈良尾町の5町が合併してできました。
地勢的に島々は急峻な山が連なり平地が少なく、海岸線は複雑に入り組んで切り立った断崖や白砂の海岸線などの景勝を持ち、対馬暖流の影響で温暖な気候のとちです。産業は豊かな海洋資源があることから古くから捕鯨や定置網、巻網、養殖などが盛んです。農業は地勢的な制限があるため芋などを育てていましたが、椿が育ちやすい土地柄であったので昔から椿油を作って暮らしの中で利用してきました。近年は椿油の産地でもあります。
椿油は五島手延べうどんにも練りこまれます。五島手延べうどんの製法は麺を切らずに引き伸ばして細くするので、生地に椿油を入れることでしなやかに伸びやすく切れにくくなるのです。
また新上五島町は現在でもカトリック教会が29もある(かつては更に6つあった)教会密集地です。いずれも明治6年に明治政府が禁教令(1614年徳川幕府が発布)を解いてからのものですが、幾つかの教会のステンドグラスや室内装飾には椿や椿のように見えるモチーフが使われています。キリスト教弾圧の時代に長崎の外海(そとみ)から五島に3000人ほどのキリスト教徒が仏教徒と偽って移住したそうですが、その外海の外海歴史民俗資料館には「バスチャンの椿」と呼ばれる木片が展示されており(2018年3月5日現在)、樫山のバスチャンの椿にまつわる伝承を伝えています。
このように新上五島町にはさまざまな形で椿との関わりが見られます。
椿サミット会場と展示
初日大会は新上五島町の有川にある新上五島町石油備蓄記念会館で、交流会は新上五島有川総合体育館で行われました。2日目は参加者が4コースに分かれて新上五島長の各場所へ椿の視察です。
石油備蓄記念会館は入り口を幟旗や椿の苗木で飾られています。館内は椿によるディスプレイがあちらこちらにあり、来場者を楽しませていました。
展示室には椿をモチーフにした着物や絵画、工芸品、盆栽などが集められました。中でも『百椿図』の写本(資生堂企業資料館所蔵)は見どころです。
折しも雛祭りの日でした。会場の一角に飾られた立派な雛段ですが、お使えするのは右近に左近や三人冠者ではなく様々な品種の椿、というところが椿の祭典らしいと言えましょう。
他にも日本ツバキ協会の品種登録審査会の登録新花が壁に張り出されて、来場者に好きな椿を投票してもらうという人気コンテストが開催されました。投票券を渡された来場者は8種類の花を見比べ、どれが好きかと、あれこれ話しながら一票を投じて楽しんでいました。
椿サミット大会
大会は14:00に石油備蓄記念会館アリーナで、地元の鯨捕りを表現した芸能「羽差太鼓」によるオープニングセレモニーで幕を開けました。
ツバキに関する功労をたたえる表彰式の後、上五島高校書華道部とアカペラユニットXUXU(シュシュ)のコラボによる書道パフォーマンスといった催しや、片岡鶴太郎氏(新上五島町名誉観光物産大使)の記念講演「流れのままに」が大会を盛り上げます。
当地の椿事情が分かる事例発表が2題ありました。
1.「新上五島町と椿」新上五島町文化財課 係長 高橋弘一氏
2.「椿TSUBAKIが結ぶ五島との縁」(株)資生堂グループマネージャー尾上真由美氏
高橋弘一氏による講演「新上五島町と椿」では、島の歴史とその中で人々の椿の関わりなどが紹介されました。椿油の生産方法には2種類ある、という紹介がありました。
一つは圧縮法です。他の地域でもよく見られる一般的な方法で、種子を砕き圧力を加えて椿油を絞り出す方法です。
もう一つは、煮出し法、と呼ばれるものでした。細かく砕いてすりつぶした種子を湯に投じて上澄みの椿油をすくい取り、さらに煮詰めて水分を飛ばして椿油だけを取り出して製造する、という方法でした。確かに考えてみれば考えられる方法です。興味をそそられ、ちょうど2日目のツアーで見学したので、詳細はそちらに書きまます。
最後は次回開催地である静岡県御殿場市によるプレゼンテーションで幕を閉じました。
その後、椿サミット参加者の交流会が有川総合体育館でありました。400年以上の伝統を持つ地元の「上五島神楽」により始まった会は、新上五島町長江上悦生氏の歓迎挨拶と日本ツバキ協会会長箱田直紀氏の乾杯、日本ツバキ協会に品種登録された新花の人気投票の発表などがありました。会場入り口には上五島高等学校書道部員による書道パフォーマンス作品が飾られ、地元産マグロの解体ショーなども行われてにぎやか会となっていました。
新上五島町はヤブツバキと隠れ切支丹の島
椿サミットが行われた新上五島町は、九州の西端、五島列島の北部に位置する通称上五島と呼ばれる地域です。中通島と若松島および周辺の有人無人あわせて67の島からなります。海に囲まれた急峻な地形でその80%が山林という島は、ヤブツバキが多く自生しています。その数なんと680万本。その種子から採れる椿油は昔から生活の糧として活用されてきました。
椿以外でも隠れキリシタンの島として有名です。現在でも29の教会があり、約2万人弱の人口の25%がキリスト教徒だそうです。
教会の内装やステンドグラスには、椿や、椿をモチーフにしたように見える図柄があります。普通ならバラやユリをモチーフにするのでしょうが、この土地に椿が近しくあったことの表れのように思われます。
また上五島は水産資源に恵まれ、漁業や捕鯨拠点としても発展しました。有川に鎮座する海童神社(かいどうじんじゃ)は、鳥居に鯨の顎骨を使用しておりユニークです。