鴇の羽重(ときのはがさね)

鴇の羽重 光が丘夏の雲公園ツバキ園20210325_

Camellia ‘Toki-no-hagasane’

花は、移り白〜極淡い桃色、宝珠咲きから八重咲き、牡丹咲き。花径10cm以上、厚さ3.5~4cm、大輪。花弁は丸く、弁端は円形または凹頭。内弁になるほど小さくなり、時に旗弁が出る。雄しべは筒しべが出る場合と散しべ〜割りしべで散開し内弁と混じりあう時があり、定まっておらず花の形にも違いが生じる。葯は黄色、花糸は白い。雌しべはほとんど退化しているので結実しない。花付きはよく花期は3月下旬〜4月下旬。葉は緑色、楕円形、中形、葉質は厚い。樹性は強健、枝葉は共に密に茂る。立性、楕円形に生育。

江戸期からの品種で、伊藤『椿花集』(1879)に載る。

昭和初期にアメリカにわたり別名で呼ばれたが現在は日本名で呼ばれると『現代椿集』(日本ツバキ協会,1972)にあり、別名として、Bessie Morse Bellingrath(ベシー・モース・ベリングラス)、Betty Hopfer(ベティ・ホフア)、Kent Deigaard(ケント・ディガード)。『園芸入門 魅力の花木 つばき』(萩屋薫)には、明治の頃から人気のある品種で、昭和の初めにアメリカに渡り、Betty Hopferなどと呼ばれる、とある。『つばき 名花の紹介と栽培』(安藤芳顕)には別名Bessie Morse Bellingrathと紹介。

鴇の羽重 光が丘夏の雲公園ツバキ園20210325_
鴇の羽重 光が丘夏の雲公園ツバキ園20210325
鴇の羽重 光が丘夏の雲公園ツバキ園20210325
鴇の羽重 光が丘夏の雲公園ツバキ園20210325

ほんのり桃色を帯びた白いろや整いすぎず不規則すぎない花弁の開き方や重なり方が、全体的に優しげで優雅な雰囲気を感じさせます。

「羽重ね」とは、鳥が一つの羽の上に他の羽を重ねる意味と、建築用語で、壁板・天井板などを張るときに、一端を他の板の端に重ね合わせて並べること、の意味があります。(デジタル大辞泉,小学館)

鴇(トキ)は学名をNipponia nipponとつけられるほど、かつては日本各地にいた鳥でした。トキの羽の色を示す鴇色・朱鷺色(ときいろ)は、少し黄みがかった淡くやさしい桃色です。白っぽい体全体において、風切羽や翼の下側に見られる色です。つまり日本人はトキが自分達の頭上を飛ぶ姿を見上げる時、この朱鷺色を目にしていたのです。鴇色の羽を広げて大空を優雅に飛ぶトキの姿はさぞや美しかったことでしょう。朱鷺色は草木染めでは紅花や蘇芳すおうで染められました。

鴇の羽重(ときのはがさね)。この美しいツバキの名前は、そうしたかつての日本の優美で美しい光景を想像させてくれます。

<引用・参考文献>
・最新 日本ツバキ図鑑,日本ツバキ協会,誠文堂新光社,2010
・現代椿集,日本ツバキ協会,講談社,1972
・日本ツバキ・サザンカ名鑑,日本ツバキ協会,誠文堂新光社,1998
・日本の椿花,横山三郎・桐野秋豊共著、神園英彦写真,淡交社,1989
・日本の銘椿,佐藤稔,中日新聞本社,1983
・園芸入門 魅力の花木 つばき,萩屋薫,主婦の友社,1974
・つばき 名花の紹介と栽培,安藤芳顕,保育社,1971

<撮影場所>
光が丘夏の雲公園ツバキ園